◆第七章◆ 懺悔と殉難(5)

 粗雑に造られたカカシのような身体を細かく震わせ、六人の――いや、六つの影がにじり寄る。

「そやつらは妾の話が信じられないようだったのでな。こうして歴史の生き証人としてやることにしたのよ。妾の傀儡としてな」

 オルムは満足げに、醜い笑みを浮かべた。

「完全な自我は保ててはおらぬだろうが――結晶の半分ほどは原形のまま残してやったゆえ、目の前の出来事を認識することくらいは出来よう。さて――」

 座したまま右腕を上げて指先の銃口を向け――

「物語の続きを演じるとしようではないか。神に立てついた愚かなヴァルハ家の――最後の王女オリヴィアの哀れな末路を歴史に刻みこんでやろう――!」

 オルムが銃弾を放つ。難なくディーンはこれを最小の動きで躱すが――

 周囲から一斉に六体の機構獣が飛び掛かる。その片腕はあるいは鋭利な斬刃ざんば、あるいは強剛な砕斧さいふ、あるいは犀利な突槍つきやり。八方から振るわれる刃を見切り、ディーンは身を捻り、反し、潜り抜ける。そして攻撃の隙にオルムへ向けて銃弾を放つ。

 正確に左胸を捉え放たれたそれをオルムは避けることもなく――飛来する弾丸を狙い、撃ち落とす。

「妾を直接狙ってくるとは――傀儡と言えども、なまじ知った相手とあっては貴様も手が出せぬか?」

「無駄話は嫌いだと言ったはずだぜ! 黙りなッ!」

 止むことなく殺到する刃物から逃れつつ、更なる弾丸を連続発射する。だが、一つとしてそれは届くことなくオルムの射撃によって相殺された。

 弾き落とされた弾丸が力なく地に転がる。

「ちっ……ニール! こっちはいい――何とかしてヤツの隙を作ってくれ!」

 このままでは勝機が掴めないと判断し、ディーンが叫ぶ。

 ディーンの声にニールが疾りだすが――素早く地中を泳ぎ二体のカカシが女帝を守るように立ちはだかる。振り降ろされる短剣をニールが頭部から延びる刃で受け止めた。そして白銀の騎馬と二体の人型の影が交錯し、幾度となく火花を散らす。

「……ニール! こいつらに手は出すなよ!」

 残る四体から振るわれる凶刃をディーンはいなし続けるが――

「まだそのような戯言を吐く余裕があるとは――どれ、その踊りがいつまで持つか……試してやろうぞ」

 女帝が残忍な笑みを浮かべた。

 オルムの指先が火を吹き、隙間を縫うように銃弾が殺到する。

 刃を避けた先に飛来する凶弾。数本の緋色の髪が散り、マントに創痕が刻まれる。

 なんとか弾丸を躱すも体勢が崩れ、そしてついに――

「くっ――!」

 斬撃がディーンの頬を掠める。

「ふははは……! そろそろ限界が近――。……!? なッ、なんだと……!! そんな……そんな馬鹿なッ!」

 オルムが一時は歓喜の声をあげるも――想像だにしなかった光景に目を見開く。

 息を荒げながら立ち上がったディーンの頬から伝うのは――赤い鮮血。

「何か勘違いをしているみたいだが――アタシは人間だぜ。いい加減テメェと同じ機構獣ガラクタ扱いは――やめてもらおうか」

 親指でそれを拭い、ディーンは舐めた。

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