◆第六章◆ 真相(3)

 テラス席から星空を望み、琥珀色の液体を流し込む。

 無人の店内には灯りもなく、夜空は普段より澄みやかに見えた。

「よう。お勤めは終わりか? 公務員」

 テラスの外から現れたホークに向けて、ディーンが空を眺めたまま言った。

「……まぁな。いつから気づいてた?」

 木板を軋ませホークがテラスに上る。

「さぁ……一連の行動からそのうち、ってところだ。役人の臭いには敏感なんでな」

 賞金稼ぎというには金に頓着がなく、腕は立つくせにダーレスのような相手の仕事を引き受け、妙にしがみつく。それに――身銭を切ってまで明確な目的もなく自分に接触を試みてきた謎の行動。

 しばらく行動を共にしているうちに、導き出されたホークの正体。それが身分を隠し、諜報活動や表沙汰にできない案件を片付ける国家権力の暗部。連邦保安局執行官だ。

「まさか執行官と仕事をする日が来るとはな。さすがに予想してなかったぜ」

 各地で何かとお役人との揉め事の多いディーンにとっては、突拍子もない出来事だ。

「治安を売ってる身としちゃ、危険の種は放って置けないからな。今後のためにもちょいとお前さんの事を探っておこうと思っただけさ。別件と同時進行になっちまったが」

「――で? アタシの品定めは済んだんだろ。判決は?」

 伏せていたグラスに酒を注ぎ、ホークが掲げるように突き出した。

 そしてじっとディーンを見つめる。

 軽く笑い、ディーンもグラスを突き出す。

 小さく澄んだ音を響かせ、琥珀に浮かぶ月が揺れた。

 …………

 多くを語ることもなく。一時、二人で酒を酌み交わす。

「お前さん。これからどうするつもりだ?」

 ふいにホークが訊ねる。

「そろそろ放浪に戻るさ。アレンとエレナを祝福してから。その後で、な」

 二人の挙式を控え、休業中の酒場を眺めてディーンは呟くように言った。

「そうか。オレも晴れの日を見届けて、街を発つつもりだ」

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