◆第五章◆ 決戦(10)

 衝撃が走り、断裂する。ディーンが床に落ち――軽やかに着地した。

 足元に転がるのはただの鉄線と化した女王の触手。

 そしてディーンの左手に握られていたのは――新たに姿を現したもう一つの大口径銃。 

「アタシにこれを使わせるとは――女王の名はダテじゃないってところか」

 漆黒に染まった銃身と、錫色すずいろに光沢を放つグリップ。右手に握るそれとは色調の反転した拳銃をくるりと回し、ディーンは言う。

「さて……ギャラリーが増えすぎたな。ここらで捌くとするか。――ホーク! 満員御礼だ、もうアタシのファンは増やさなくていいぜ!」

「お前さんってやつは、ホントにどこまで……はっ……ははっ! ああ、もう――行かせはしないさ!」

 変わらぬ調子のディーンにホークが安堵の息を漏らし、リボルバーを構える。

 女王の前から離れ、ディーンが群れへと向かって疾る。二つの銃口が唸り、瞬時に正面に広がる機構獣を駆逐する。大軍が二つに割れ――中央で宙へと舞う。全身を回転させながら引金を引き、周囲全方向へと銃弾の雨を叩きつける。巻き上げられた残骸が旋風のように舞う。

 跳躍の頂点へと達し、前方回転と共に着地。正面と背に銃を向け、照準を反時計回りに滑らせる。発砲炎が美しく弧を描き、周囲に散った鉄屑もろとも群がる凶獣を破壊する。

「派手にやってやがる――恐れ入ったぜ。まだ爪を隠してたなんてな」

 階段を下ってくる機構獣に弾丸を撃ちこみながら、その光景にホークは唸る。

 止むことのない閃光と撃音を纏い、乱舞を演じるディーン。

 そして――演目が終わりを告げる。

 女王の目に映るのは己が生み出した民の姿ではなく――山積する瓦礫の山。

 先ほどとは一転した静寂の中、身を隠したディーンは息をひそめ、機を伺う。

 巨大な眼を動かし、女王は獲物の気配を探る。カラリと鉄欠片が山を滑り落ち――

 機銃を一斉走射。轟音を上げて鉄屑を舞い上げ、更地へと変える。

 標的の姿は無い。それを見届けた後、女王は上体を高く掲げ――

 四門の連装機銃の銃口を広げ、各々別の方向へと向ける。

 ――!

 女王の眼が輝き、凶悪な光を放つ。

 次の瞬間、爆音と灼熱が一帯を呑みこみ瓦礫の山を粉砕し、塵に変える。

 狙いなどない、全方位への一斉射撃。奈落の底に赤黒い霧が立ち込め、逃れることのできぬ死地と化す。

 目の前のもの全てを跡形もなく粉砕し――女王が吼える。

「デ、ディー……」

 力なく声が漏れる。そんなホークを見上げ、凶獣は満足げに片割れとなった触手を震わせるが――

「残念だったな――アタシはここだぜ。次があったら、今度はちゃんと狙って撃つんだな」

 ディーンの声が響く。

 反応した女王が首を下ろした次の瞬間――

 その巨躯の下に潜んでいたディーンが二つの銃身を交差させ――振り抜きながら引金に力を込める。

 白銀と漆黒の銃身から吐き出された弾丸の群れが突き刺さる。外殻の隙間に覗く内部機構を裂き――凶獣の女王を断頭する!

 鈍く地を鳴らし、鉄塊が落ちる。

 青白い灯火が消え――奈落は本来の闇へと還っていった。


   ◆◆◆


 城門からの敵の襲来により、機構獣に囲まれ一団に絶望の色が見え始める。

「くそっ! 弾切れだ! もう――ここまでなのか!」

「まだ――まだです! 諦めない限り可能性は必ず――!!」

 アレンは叫び、長銃を構える。一斉に迫る獣の一体に意を決し狙いを定める。

 だが、次はもう無いだろう。せめてこの一体だけでも――

 エレナの顔を浮かべながら、引金に指をかける。

 ――――。

 銃声が響く前に、凶獣が崩れ落ちた。同時に周囲の機構獣も瞳の光を失い、停止する。

「と……停まった……?」

「お……おい。おい! これってまさか――!!」

「あ……ああ! ああ! 間違いねえ、きっと……やってくれたんだ、あいつらが!」

 あちこちから歓声が巻き起こる。

 戦いの終結に歓喜する声が、かつての帝国の地を包み、空に響きわたった。

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