◆第五章◆ 決戦(9)

「これで全て完了です!」

「よし、護衛班、一時退却するぞ! 急げ」

 アレンの合図に護衛班のハンターたちが撤収準備を開始する。城壁に残る機構獣をあらかた排除し、自警団の幌馬車に続いて馬を駆る。

 ゆっくりと動き出した馬車へと駆け寄り、アレンが飛び乗ろうとした時。

 城壁から降り立った数体の機構獣の姿が見えた。だが、追ってはこないようだ。安堵の息を漏らすが――その行く先を見てアレンの鼓動が高鳴る。獣たちが目指すのは城壁を穿つ暗がり。ディーンたち向かった城門だ。まずい――このままでは中にいるハンターが挟み撃ちになる。

 アレンはライフルを手に一人、走りだす。

 …………

「そっちはどうだ! 全員無事か!?」

「ああ、問題ない! だがもうじき弾薬が切れそうだ」

 城門を抜けたその先でハンターたちが獣の群れから退路を死守すべく奮闘する。空になった弾倉に弾を込めようと一人の男が下がり、弾薬を詰んだ木箱へと駆け寄ると――その先の暗がりの中に浮かぶ青白い光に気が付く。次の瞬間――城門から現れた獣に飛び掛かられ、その場に倒れる。

「くそっ! 外だ、外からも来てるぞ!」

 砂の上を転げ、凶獣から逃れようともがく。仲間たちが振り返るも自身に迫る敵の対処に追われ救出する余裕がない。

 同時、門を抜け、アレンが内部へと足を踏み入れる。目の前には今にも犠牲になりそうな一人のハンターの姿。

 一刻も猶予はない――!

 アレンは弾薬を込め、ボルトハンドルを引く。

 すかさずライフルを構え、機構獣の頭に照準を――腕が震える。

 無意識に指先に力が入りそうになるが、ディーンの言葉が甦る。

 ――まずはしっかりと狙う事。いくら撃ったって的に当たらなきゃ意味はない。

 そうだ。狙うんだ――しっかりと。この二日間、練習してきた通りにやればいい。

 大切なものを守るために――みんなで無事に帰るために。エレナの顔が浮かんだ。

 震えが止まり――引金に力を込める。

 発砲。弾丸が振り向いた獣の額を撃ち抜き――ややおいて凶獣は崩れ落ちた。

「た……助かった! ありがとよ。ん? お前……こないだの……」

 よく見れば銃の練習中にアレンに野次を飛ばしていた男だ。男は申し訳なさそうに目を伏せる。

「いいんですよ、気にしないでください。それより――外から回り込んできている機構獣がいます! ここで防がないと!」

 ハンターたちに告げ、アレンはライフルを構えた。

 その言葉通り――侵入者の退路を断つべく、暗闇の中に獣の瞳が浮かび上がっていた。

 …………

 エントランスに銃撃音が鳴り響く。床には赤茶けた鉄塊と、撃ち砕かれた大理石の破片が山のように積もっていた。

 ニールがその隙間を駆け抜け、さらなる凶獣を破壊してそのかさを増す。

 ディーンとホークが突入して大分たつ。もうじき撤収の決断をしなくてはならない頃合だ。

 まさか――失敗したのか? 男の顔に焦りの色が浮かんだ。

 それを察してか、一人のハンターが声をあげる。

「弾も尽きてきた! 戻りを考えるとそろそろ限界だ!」

「わかってる! まだ少し時間はある、あいつらを信じて最後まで踏ん張れ!」

 不安を吹っ切るように叫び、男は引金を引いた。

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