◆第五章◆ 決戦(8)

「こっちは引き受けた、ザコはオレが食い止める!」

 にじり寄る獣を撃ち抜き、ホークは螺旋階段を上る。

 女王が動く。ディーンを狙い機銃が唸り、火を吹いた。

「っと――せっかちなやつだな。ま……こっちものんびりしてられないんでな。さっさと終わらせてもらうぜ!」

 横に飛び、地面を転がりながら手を腰に伸ばす。そして――起き上り様に撃発。狙い澄ました一撃が高い音を立てて標的の頭を叩く。

 しかし何事もなく女王は機銃による掃射を続行、左右の銃口がディーンを追いつめるように動き、休むことなく弾丸を吐き続ける。

 距離を取りながら左右へのステップを繰り返し、波状に押し寄せる無数の銃弾を躱す。

 そして隙を見て機構獣の頭部を狙い、応戦。

 立て続けに放たれた鉛玉が一点に殺到、けたたましい音と共に衝撃を重ねるも――着弾と同時に軌道がそれ、背後の金属壁を穿ち、火花を散らす。

 強固な外殻に加え、その流線を描く形状によって威力が殺されているか。

「――はっ、その王冠みたいなふざけた頭もただの飾りじゃないってわけかい」

 やはり決め手となるのは接近しての集中砲火。外殻の隙間を撃ち抜くしかない。

 ディーンは作戦を変更。これまでとは一転、姿勢を低く構え、地を蹴る。

 挟みこむ様に左右から迫る連装機銃の銃弾の嵐の中心を抜け、直線運動で一気に間合いを詰めに掛かる。

 機銃の照準が定まらぬほど疾風の如き速さで迫る標的。女王が上体を反らし――

 ディーンがその空間に滑り込む。外殻から覗く頸に狙いを定め、指先に力を込めようとした瞬間――鋭く空気を斬る音が届く。

 反射的に後ろへと飛ぶ。直後、目の前を抜ける鉄線。

 見上げると、ワイヤーの触手をしならせ、牙を剥く巨大な獣の頭部。その凶暴な瞳と目が合った。女王が擡げた頭を一気に振り降ろす。

 周囲を包む不気味な青白い光に影が落ち、命を喰らわんと凶刃が迫る。

 素早く身を反転させ、間合いを離す。衝撃が鼓膜を震わせ、続いて金属を抉り砕くおぞましい不快音が響く。

 床を破壊し、めり込んだ頭を擡げる獣に銃弾を叩き込む。わずかに外殻が変形するも、撃ち抜くには至らない。弾倉マガジンを抜き、素早く給弾。更なる追撃を狙うも――二本の触手が襲い掛かりこれを阻止する。

 上体を反らし、右からの一撃を避ける。崩れた体勢のまま、目標を照準に捉え発砲。足元を狙った左の触手を弾き返す。しかし二本のワイヤーは各々が意志をもった蟲のようにうねり、執拗にディーンを狙い続ける。

 身を返し、撃ち、弾き、そして飛ぶ。薬莢と火花を散らしながら、拮抗した攻防が続く。

 …………

 階下で繰り広げられる激闘を脇目に殺到する獣の群れを撃ち砕く。

「くそっ――! キリがないな」

 ホークが唇を噛み、引金を絞り続ける。

 鈍い光に浮かぶ赤黒い獣。絶えることなく壁の中から現れる機構獣は確実にその数を増していく。螺旋を描き地上へと続く階段は機構獣に埋め尽くされ始めている。まずい、このままでは――ホークの脳裏に最悪の展開が浮かんだ瞬間。ついにその時は訪れた。

 溢れ出した獣が押し出され、宙へと舞い――吹き抜けを落下。女王の元へと参上する。

 …………

 幾多の衝撃音と共に、背後に機構獣の群れが出現する。襲いくる触手を躱し、ディーンは振り返って銃弾をばら撒く。赤黒い鉄片が舞うも、その行方を見守ることなく正面へ向き直り、迫る一撃を弾き返す。その間にも降り止まぬ雨のように続く金属の打音。

 女王に仇なす害虫を囲み、排除すべく獣たちが動き出す。押し寄せる軍勢に向けてディーンが銃口を構え――

「――っ! ちっ! コイツ――!!」

 執拗にディーンを狙っていた金属の触手が、一瞬の隙を逃さずその右手首に絡みつく。

 殺到する凶獣が目の前を赤く染めあげていき――

「――! ディーン……!!」

 赤黒く染まった奈落にホークの叫び声が木霊した。

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