◆第五章◆ 決戦(6)

 砂上に浮かぶ遺跡を臨み、一団はついに決行の時を迎える。

 その大きさに驚愕の声が上がったが、待ち受ける激闘を予感しての事か。ざわめきはすぐに収まった。緊迫した空気が一行を包み込んでいる。

 最悪の場合、城壁外にまで機構獣が溢れかえっている光景を想像したが、そんな心配とは裏腹に周辺は静かなものだ。

 機構獣に気づかれぬよう、ゆっくりと進軍を開始する。注意深く城壁を観察しながら近づいていく。所定の位置につき、各班が隊列を組む。

 じりじりと焼けつく陽光に影が落ちた。一呼吸おいて、ディーンがかざした手を下ろす。

 同時に二つの班が動いた。城壁の傍らに停まる幌馬車をめざし、数十体の騎馬が砂を蹴る。ハンターたちは幌馬車の周りを囲むように距離をとって散開。しばし城壁と周辺を警戒する。

 そして――旗が振られた。安全を確認した合図だ。

「よし、行けいっ! 進むのだ!」

 護衛に囲まれたダーレスが自警団に振り返り、馬を駆る。

「アタシらも行くぜ! 一気に突っ込む!」

 同時にディーンも叫び、ニールが疾走を開始する。

 砂海を揺らしながら、一気に全部隊が動き出す。

 …………

 隊列を率い、ディーンは駆ける。

 遺跡の威容が視界を埋め尽くしていき、大きく口を開けた城門が迫る。

 ここで自警団のメンバーが進路を左に変更。偵察隊の守る幌馬車に向かって一直線に走る。ディーンはそれを見届け、ニールの速度を上げる。

 呼応するように続くハンターも愛馬の足を速め、左右に展開を始める。

 一行を呑みこむように開かれた城門。向こうには砂の泉に埋もれた噴水の跡と、その先に大神殿の柱が浮かぶ。

 そして――突入。分厚い城壁を穿つトンネルへと入り、刹那、暗闇に包まれる。

 その暗黒を抜け――再び眩い光に照らされる。同時、上空から迫る影。

 素早く銃を抜き、天に向けて引金を引く。空中で二つの鉄塊と化し砂煙に消える獣。

 振り返ると――城壁に張り付き獲物を待ち構えていた機構獣の群れが次々と空に舞う。

「来たぞ! 上だ、八班、九班展開! ――ここで迎撃する」

 二班のハンターたちが留まり、舞い降りる機構獣に銃弾の雨を浴びせかける。数多の金属音が重奏となり、城壁に反響した。

「――頼んだぜ! 行くぞニール」

 銀灰の騎馬が宙を舞う。朽ちた噴水を飛び越え、神殿を目指す。

 ――と。周囲に堆積した砂塵が蠢く。這い出すように現れた凶悪な獣どもの牙が赤銅色に輝きを放つ。

 ホークのリボルバーが火を吹き、瞬時にこれを撃ち抜いた。数体の獣が砂に沈む。

 しかし亡骸を押しのけ、新たな機構獣がその醜悪な姿をさらけ出す。

「五班以下、順次散開だ! 退路確保を頼む」

 一定の距離を置きながら各班が展開。地中から現れる機構獣に向けて一斉掃射を敢行。砂地に空薬莢をばら撒きながら、金属片を舞い上げる。

「さあシルビア、いっちょ華麗に決めとくか」

 飛び掛かる赤黒い獣を白馬が軽やかに躱す。違いざま、発砲炎と共にそれを鉄屑と変える。

 次第に神殿が近づき、その姿が鮮明になっていく。

 しかしその前に広がるのは機構獣の群れ。

 一帯を埋め尽くし、赤い絨毯のように大地を染め上げ、侵入者を迎え撃つ。

「三班以下、突撃だ! 道を――切り開くぞ!」

 数十人のハンターが先行、銃を構える。距離が詰まっていき――発砲。轟音と共に破片を散らし一点を突き破る。

「今だ――駆け抜けるぞ!」

 二つに割れた赤黒い海の狭間を白銀と純白の駿馬が疾走する。

 そして――ついに神殿の前に辿り着く。

「二班、神殿周辺を防衛。頼む」

 ハンターが神殿を取り囲むように散開。周囲を警戒する――地面が揺らぎ機構獣が現れ、交戦開始。絶え間ない発砲音の中、残るメンバーは神殿の門を潜る。

 巨大な柱が等間隔に立ち並び、薄暗い神殿内部。広大なエントランスのその先に、奥へと続く扉が見える。ここが敵の本陣にあたるはずだが――不気味なほどに静かだ。一行は警戒を緩めず、慎重に歩を進める。

「一班、エントランスに展開――」

 中央付近へと差し掛かりディーンが口を開いた時――後方から金属音が響く。

 それを皮切りに暗がりの天井が歪み――ディーンたちを取り囲むように無数の機構獣が降ってくる。

「……ぐあっ!」

 ハンターの一人が下敷きとなり、馬乗りにされ懸命にもがく。青白い眼が輝き、鋭利な牙が迫る――!

 数発の銃声と共に、機構獣の頭部が砕け散る。仲間のおかげで命拾いをしたハンターが息を荒げ、転がるようにそこから離れた。

 闇の中に灯る数多の青い光。金属の軋む音を反響させながら、じわりと迫る獣の群れ。

「――コイツらはここで食い止める、お前たちは行けッ!」

 男が叫び、銃を乱射する。

「わかった! なんとか持ちこたえてくれ! 行くぞホーク!」

 ニールの後にシルビアが続く。道を阻もうと立ち塞がる機構獣を撃ち抜き、神殿の奥へと進む。その先には巨大な神殿とは不釣り合いなほどに小さな扉。

「ここからは二人で行く! ニール、シルビアを頼んだ」

 疾走する愛馬から飛び降り――勢いのままにディーンとホークは走る。ドアを蹴破り、内部へ突入する。

 冷たい廊下に響く足音が暗闇に飲まれ、遠のいていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る