◆第五章◆ 決戦(4)
人々はヴァルハ王を迎え、戦いは始まりを告げました。
城下には機械の獣が放たれ、戦火が国中を包み込みます。
女帝オルムへの道は遠く、険しいものでした。
それでも人々の力を借り、王はオルムの元へと辿り着きます。
自らも機械の力を得た女帝の力は強大で、大いにヴァルハ王を苦しめました。
その攻防は激しく、多くの仲間が犠牲となり、その命を散らしました。
しかし死闘の末に――ついに王は女帝を倒すことを成し遂げます。
人々の結束が――邪を打ち破ったのです。
帝国の一員として戦争を引き起こした罪を贖い、そして二度と過ちを繰り返すことがないように。
残された人々は、国を捨てることを決意しました。
その地と共に恐るべき女帝は永遠に封じられる事となったのです。
栄華を極めた帝国――その最期でした。
人々は平和を求め、新しい土地で生活を始めます。
後にその街は――ミドガと名付けられました。
…………
そこまで読み上げ、エマは顔を上げる。
独特の澄んだ声も相まってか、子供たちはすっかり物語に引き込まれた様子で、静かに聞き入っていた。
「あら……まだ居たの? ほら、みんな。もうこんな時間よ」
ラウンジに入ってきたエレナが腰に手を当てつつ子供たちを見る。窓の向こうに広がる空はすっかり黄昏に包まれていた。
「ちぇ……はーい」「残念……じゃあね、エマおねえちゃん!」「またお話聞かせてね!」エレナに急かされ些か不満げな表情を滲ませつつ。エマに別れを告げながら子供たちは教会へと帰っていく。
「ごめんなさい、エマ。子供たちの相手をお願いしちゃって。でも、おかげで酒場の手伝いに行けて、本当に助かってるわ」
アレンが不在の間、エレナは酒場の手伝いに出ている。子供たちの相手をする余裕はなくなっていたのだが――意外にもエマがその役を買って出てくれた。
「ううん、いいの。私も……この本、読みたかったから」
「そう。そう言ってもらえると少しは気が楽になるわ。さ、夕食にしましょ。すぐに用意するわね」
ラウンジを出て行こうとするエレナの背に、エマの声がかかる。
「ねえ、このお話って……本当にあった事なの?」
「さあ――どうかしらね。どこまで本当の事かはわからないけど、この街では昔から語り継がれてきたお話しなのよ。わたしも小さい頃、よく母親から聞かされてたの」
エレナは振り返り、少し首を傾げてみせ――
「……もうばれちゃってるとは思うけど、その本はわたしがお話を書きとめたものなのよ」
ちょっと恥ずかしそうに付け加える。
「エレナは……信じてるの? このお話」
「それは――わからないわ。でも、そうね……信じたいとは思ってるかも。こんなふうに現実の世界も必ず救われる時がくるんだって」
「それって、ディーンたちの事……? 彼女たちも、うまく……いくかな……」
エマが顔を伏せ、不安げな表情を浮かべた。
「きっと大丈夫よ。ディーンさんなら……きっと。エマのおかげで地図も出来て、作戦も立てられるって言ってたでしょ。ね? 信じましょう」
エレナが近づき、エマの肩を優しく抱く。
澄んだ瞳を震わせ、エマは静かに頷いた。
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