◆第五章◆ 決戦(3)

 満天の星空を臨みながらも、あちこちに灯る焚火に炙りだされ、一帯は昼間のような明るさだった。

 一行の面々は火を囲み、思い思いに食事や休憩をとる。

 ディーンがワインを開け、干し肉をかじっているとアレンがひょっこり現れた。

「お疲れ様です、ディーンさん」

 そう言って酒瓶を差し出す。

「ミドガ一の酒場、出張版ってところです。親方の好意なんでお代は結構ですよ。――皆さんもどうぞ」

 アレンは小さな荷車に積んだ酒を見せ、周りの人間に薦める。

 「おお、気が利くじゃねえか」「ありがたく頂戴するぜ」「おっ、十二年物もあるぞ」男たちが荷台の周りに集まり、途端に賑やかになる。

 キャンプを回り酒を配って歩いてきたのだろう。汗ばんだ額をぬぐいながらアレンは腰を降ろす。

「慣れない長旅だろ? まだ始まったばかりだ。無理するなよ」

「大丈夫です。体力だけなら激務で親方に鍛えられてますから。それでその……相談があって来たんですけど」

 アレンは苦笑混じりに答え、改まった様子でディーンを見る。

「こっちのほうで心得というか、そういうのがあれば教えてもらえればと思いまして」

 負い紐で肩にかけていたライフルを下ろした。

 銃を見てディーンは少し考える。

「そうだな……まずはしっかりと狙う事。いくら撃ったって的に当たらなきゃ意味はない。連射の利かない銃は尚更だ。それだけ隙を作ることになるからな」

 そう言ってボトルを煽り、ワインを飲み干す。

「次に同じ場所を何度も狙うことだ。一点を撃ち続ければ、必ず道は開ける」

 ディーンは立ち上がると――

「簡単な練習の手段としちゃ――」

 空になったワインボトルを高く宙に放り投げた。

 月明かりを浴び、濃緑色の瓶が宝石のように輝く。夜空に弧を描き停滞すると――地に引かれ回転しながら舞い戻ってくる。そして岩盤を叩き砕ける――寸前、数回の銃声と共に欠片となって散った。

「的が地面に落ちる前に当てる、慣れてきたら出来るだけ引きつけて撃つ」

 ディーンのあまりに鮮やかな手並みに、アレンはもちろん周囲の男も感嘆する。

「ま、まずは当てるところからだ。焦らずにな」

 アレンから受け取った酒の栓を開けつつディーンはウインクした。

 …………

 周囲から空瓶を集め、早速アレンも挑戦する。銃弾は空を切るばかりで、かする気配もない。

「ははは、いきなりそれができりゃ苦労はねえよ、若いの!」

「気にすんな。このねーちゃんが普通じゃねえんだって」

 様子を見物していたハンターから軽い野次が飛ぶ。

「はは……やっぱり難しいですね。でもすごく参考になりました。あと二日あるんで、練習してみます! ありがとうございました。じゃあ、僕はそろそろ戻りますね」

 アレンは苦笑いを浮かべながらも、どこか満足げな様子だ。

「ああ、待った。最後に一番大事なことがある」

 荷車を引こうとしたアレンを呼びとめる。

「えっ? なんですか?」

「なにより大事なのは――諦めないこった。諦めない限り、最後まで可能性は残るからな」

「――わかりました。覚えておきます」

 ディーンの顔を見つめ、アレンは深く頷いた。

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