◆第五章◆ 決戦(2)

 数多の蹄と車輪の音を刻みながら、一団は荒野を進む。

 この規模の人数での進行となると、あまり速度を出すことは出来ない。隊列の様子を確認しつつ、ニールの足を普段の六割程度に落としてディーンは先頭を走る。

 調査から戻ったときとは違い、当然ながら行路にそって目的地を目指す。遺跡までには途中三回の野営を行う。一回目は赤土の堆積したエリアを抜けたあたり、二回目は岩盤地帯の中央付近、最後は砂漠地帯の手前だ。そして三日後、遺跡へと向かい隊商の回収と――機構獣の巣へ突入を敢行する。

「いやはや、改めてこうしてみると壮観だ。お前さん、さながら一軍を率いる将ってところだな」

 砂煙をあげながら後に続く一団を見て、ホークが唸る。

「よせよ、アタシはそんなガラじゃないさ。それにこれは全員が自分の意志で立ち上がったその結果だ」

「そりゃあ間違いないが。かつても似たような事があったのかと考えると、そう思いたくもなるってもんさ」

「似たような事?」

 ニールをシルビアに並走させ、ディーンが向き直る。

「ああ。遺跡の事が気になってちょっと調べたんだがな、もしかするとあれは古の帝国の名残かもしれないぜ? ミルドガル帝国――かつて機構獣を次々と生み出し、戦争を引き起こした大国の一つだ」

 ホークが指を立てて話し出す。

「もはや伝説に近いが――語り継がれてるところじゃ、ギルドの前身となったヴァルハ王家と民が力をあわせ、元凶の女帝を倒し、そこに封じたとか」

 ああ――子供たちにエレナが読み聞かせている話か。ディーンは思い出した。

 なるほど。ホークの気持ちもわからなくはない。

「な? まるで今のオレたちみたいじゃないか。同じ旗を掲げて、みんなで機構獣に立ち向かう――ロマンのある話だ」

「随分と興味があるみたいだな。これを機に考古学者にでも転向したらどうだ?」

 さも楽しそうに語るホークにディーンがからかい半分に提案する。

「いやいや、遺跡への潜入調査は今回きりにしとこうと思ってるんでな。オレにとっちゃ古代の神秘より、レディの心理のほうがよっぽど魅力的な研究テーマさ。そっちを専攻したいね。例えば――どうすればお姫様とお近づきになれるのか、とかな」

「なら、よかったじゃねぇか。これから会いに行くのは蟻の親玉――いうなれば女王さまだぜ? お近づきになれるようがんばるんだな」

「気に入られる自信はあるな。きっと大勢で歓迎してくれるだろうよ」

 軽口を言いあい、二人は笑った。

 …………

 数回の休憩を挟み、進むこと数時間。西日が射すと共に太陽が朱に染まり始める。

 岩盤地帯へと差し掛かり、ディーンは手綱を引いて歩みを止めた。

「今日はこの辺りにしとくか。順調だな」

 目立ったトラブルもなく、無事に初日の予定地点まで到達だ。後方の隊が到着するのを待ちながら、一行は野営の準備に取り掛かる。

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