◆第五章◆ 決戦

◆第五章◆ 決戦(1)

 自警団の結成から一夜。

 東門の周囲に広がる大地は多くの人と馬で溢れかえっており、実に壮観だった。

 一〇〇人を超えるハンターたちはグループごとに分かれ、各々出発前の最終確認や、愛馬の世話、銃火器の整備などを行っている。そんなハンターたちに囲まれ、中央付近に停まるのは十数台の幌馬車。自警団の集まりだ。

「気をつけてね。アレン」

「心配しないで、エレナ。僕は結局隊商の回収に専念することになったし、大丈夫だよ」

 当初はホークと共にディーンの援護に回るつもりだったアレンだが、ハンターの協力が得られたことと、それを踏まえてのディーンの薦めもあって最終的には自警団の一員として動くことになった。

 同時にホークも突入役として復帰し、ディーンたちの計画は最初の予定通りに決行されることが決まった。二人が自警団から外れることにダーレスは不満を漏らしたが、ハンターの一部が自警団の護衛に当たることを条件として、どうにか話はまとまり自警団とハンターによる共同作戦が展開される運びとなったのである。

「でも良かった。ハンターのみなさんが協力してくれることになって。アレンが真剣に考えて決めたことだから反対はしなかったけど……本当は止めたかったのよ?」

「ごめん、エレナ。でもディーンさんの力にならなくちゃって思った。街を――いや、君を守りたかったんだ」

「アレン……もう――バカね。危険な役目じゃなくなって安心はしてるけど、何があるかわからないから、くれぐれも用心してね」

 頬を少し赤らめながらエレナが言う。アレンがそんなエレナを見つめていると――

「アレン、こいつを持って行け」

 良く知る声が割って入る。二人の傍らに来たホセが年期の入ったライフルを差し出した。

「でも親方、これは――」

「ああ。俺がお義父やじさんから店と一緒に受け継いだライフルだ。使わないに越したことはないが、万一の時に、な。少しは役に立つだろう」

 ホセはそこで一呼吸おいて――

「……勘違いするなよ。まだ貸すだけだ。無事に帰ってきたら――考えてやる」

 バツが悪そうに顔を背けながら、そう続けた。

 アレンとエレナはしばし顔を見合わせる。

「お……お父さん、それって……!」

「あ……ありがとうございます! 必ず――必ず役目を果たして無事に戻ります!」

 言いながらアレンはライフルを受け取る。ホセは黙って手を振り、人垣の中へと消えていった。

 …………

「ディーン、ハンターの方は全隊準備完了だとさ」

「了解だ。ダーレス、自警団のほうは?」

「……ふん。急にリーダー面しおって。ええい……こっちも問題ない」

 不満を隠しきれぬダーレスを尻目にディーンは頷いて合図を送る。

 ハンターの男が応じ、手にした角笛を掲げた。乾いた風に乗って出発の合図が鳴り響く。

 ディーンとホークが先導して門を潜り、ダーレスと数名のハンターが続く。そして――隊列を組みながら一団が動き出す。

 ディーンは後ろを振り返る。いくつもの掲げられた旗章が揺れ、街を離れていく。その先の人垣の中にはエレナとエマ、そして手を振る子供たちの姿が見えた。

 陽炎に揺れて消えるまで続く歓声を浴びながら、ディーンは強くペンダントを握りしめた。

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