◆第三章◆ 遺されしもの(7)

 エマを前に乗せ、後ろに飛び乗ったディーンが手綱を握ると同時、ニールが走り出す。

「舌を噛むから喋るなよ、いいな」

 ディーンの言葉にエマが振り向いて頷く。

 ニールが城壁から離れるように進路をとり、少し遅れてホークを乗せたシルビアが続く。

 その間にも赤銅色の機構獣が次々と宙を舞い、けたたましく金属音を震わせて砂上に降り立つ。先行した数体の獣がディーンたちの背をその目に捉え、六本の脚を響かせながら後を追う。

「蟻ってのは――ほとんどがメスなんだよな。ったく――色男はこれだからつらいぜ」

 ちらりと後ろを見たホークが回転式弾倉に弾薬を込めながらぼやく。

「はははっ! 女は別れ際を間違えると後が怖いぜ?」

「わかってる。だからきっちり――清算しとかないとな!」

 ディーンにそう返し、振り向いて引金を引く。

 放たれた弾丸が一体を撃ち抜いた。勢いのまま前のめりに崩れ、砂煙を上げて転がる。そこに後続の機構獣が突っ込み、更に数体が縺れて消える。

 それを見届け、ホークは前を走る機構獣を優先して狙いに定め、的確に駆逐していく。鉄塊と化した同族の屍に巻き込まれ、連なっていた機構獣の隊列が瓦解していく。

 ここまで引き離せばもう追いつかれる心配はなさそうだ。ホークが正面へと向き直る。

 ――!

 一息ついたホークの目に映ったのは、先行するディーンへと迫る一体の機構獣の姿。

「ディーン! 一体漏らした! 左後方だ!」

 激しく揺れる馬上で、ホークは再び弾を込めようと弾倉を開く。

 急勾配へと差し掛かり、ニールの速度がわずかに落ちる。一方、重量差が出たか、機構獣の速度は衰えを見せることはない。じわじわとその差が縮まっていく。ニールを射程に捉えたか、機構獣が鋭い牙を開き、地を蹴り飛び掛かる――

「大した働き者だな。優秀なヤツだ。だが――働き過ぎも考えもんだぜ? 度が過ぎると、思わぬところで足をすくわれるからな!」

 機構獣を横目に、ディーンが一気に手綱を引き、重心を右に傾けた。地を踏みしめた前腕を軸に、ニールがその巨体を捻り大きく回転させる。

 銀色の馬体が急旋回し、一撃を避ける。機構獣はニールの傍らを舞い、地に落ちた。

 獲物へと向き直ろうと凶獣は砂を蹴るが――三対の脚は地を捕らえることなく、吸い込まれるようにずるずると斜面を滑り落ちていく。

 やがて――その奈落で捕食者の牙にかかり、機構獣は核石の輝きを散らしながら、地中へと沈んでいった。

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