◆第二章◆ イレギュラー(3)

「いやー、助かったぜ。ちょっとばかし面倒な事になるところだった」

「ふふ、様子を見に来て正解でした。良かったです」

 すっかり闇に包まれた空の下、ガス灯に照らされた街路をディーンとエレナは進む。

 エレナの登場により、ディーンはダーレスの取り調べから逃れる事ができた。 

 エレナはディーンとニールが機構獣を倒し、子供たちを救ったこと、そして多くの人がそれを目の当たりにしたことを伝え、ダーレスを納得させた。また、子供たちを保護している教会では、神父がディーンたちに理解を示し、困惑する人々に冷静に対応するよう促していたそうだ。それも大きな説得材料となったのだろう。

「でも、多分大丈夫でしたよ。ダーレスさん、昼間の件、本当は知ってましたから。その前に住人の方から機構獣を――ディーンさんたちを見たって連絡が入っていたみたいで、それを無視しておくわけにもいかない手前、声をかけたんですよ」

 機構獣を恐れていながら、ニールを連れたディーンの前に現れたのはそういうことか。なるほど、合点がいく。

「けったいなおっさんだな。要するにいち早くアタシたちの事を知ってながらダンマリを決め込んで、危険はないだろうってわかってから、のこのこ出てきたって事だろ?」

「……ええ、まあ。多分そういう感じですかね」

 エレナは苦笑する。

「あれで保安官とは――不安はないのか?」

「ないと言ったら嘘にはなりますけど。ダーレスさんが赴任してから随分治安がよくなったのも事実なんです。ちょっと不思議ですけど」

 やり方はどうあれ、あれでも一応職責は全う出来ているということだろうか。ふうん、とディーンは鼻を鳴らす。

 そんなやり取りを交わしながら二人は広場へと辿り着く。

「アタシはこれから酒場に行こうと思ってるんだが、アンタはどうするんだい?」

「そうですか。実はわたしも酒場に行くところだったんですよ」

「意外だな、イケる口だったのかい」

「いえ。飲めないことはないですけど、お酒はあまり飲まないので。……というか、お客さんも来てるのに飲めるわけないじゃないですか」

 自分のお客であるディーンにそう言って、エレナは笑った。

「そりゃそうか。まあ、アタシは宿の主人が飲んだくれだろうが構わねぇけどな」

「ふふ、ディーンさんは寛容ですね。……さ、行きましょう」

 ニールを連れ立って、二人は十字路を北へと向かう。

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