◆第一章◆ 流浪の女(5)

「ごめんね、お姉ちゃんお仕事ができちゃったから、今日はこれでおしまい」

 カウンターから少し身を乗りだして、エレナはラウンジの子供たちにそう告げる。

 「えー。そんなぁ」「いいところだったのにー」「まだ少ししか読んでないじゃんー」「続き気になるー! 今夜ねむれないかも!」と、子供たちの落胆と不満の声がラウンジに響き渡った。

 そんな様子を見せられ、まさに招かれざる客となってしまったディーンは両腕を開き、苦笑する。

 気にしないでください、とエレナはやれやれといった表情を浮かべながらそう言った。

 ディーンは軽く手を振って応えると、ドアを潜り外へと出る。

 …………

「ここでしばらく厄介になることにしたぜ。アタシはちょっと酒場に行ってくる。厩舎は裏だ。まだ少しばっかり時間はある。のんびりしてな。じゃ――また後で、な」

 通りに戻ったディーンは相棒にそう告げた。

 ニールはそれに応じたのか、わずかに首を振ると、静かに宿の裏手へと進んでいく。

 それを見届け、ディーンが振り返ると――宿屋のドアが開き、一斉に子供たちが飛び出してきた。

 子供たちは、楽しそうに何かを叫びながら、通りを広場の方へと走っていく。 

 雑踏に紛れて消えていくその背を眺めながら、ディーンも広場へと向けて歩き出す。

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