第10話 頑張ったらその分、休む

「―――。……。……ティアちゃん。」

「……。……へい、か……?」

「うん、私だよ、ティアちゃん。ご飯用意出来たけど……食べれそうかな。」

「……は、い。」


 どうやら知らぬ間に眠ってしまっていたらしい。

 相変わらず抱擁するように体中へと巻き付けられていた触手の類は傍を離れようとしておらず、俺が体を起こせばそれに合わせて巻き付かれ直され、多少はそれのお陰でようやっと体を支えられている所はある。

 つい先程から、若干の立ち眩みにも近い眩暈と共に全身へと力が入らない。

 何度か睡魔のあまりに意識を落としそうになるも、その度にぺし、と優しく触手に叩かれてようやっと我に戻る事も多くある。

 ついぞその体はいつの間にか傍にやってきたらしいホワイズの懐へと呑み込まれ、それでも俺を離す気がないらしい触手に髪を撫でられて。背中を摩られ、半ば寝かしつけられているかのような錯覚すらも覚えてしまう。


 ……。


「熱……は、なさ、そう。」

「とりあえず蛇の鱗もびっしり生えてしまってるみたいだし、もうしばらく休まないとな。」

「……。……うろ、こ。」

「うん、蛇の鱗。……体がね、ティアちゃんに“疲れたから休ませて”って言ってるの。」

「やす、む。」

「うん。休まないと……ね。」


 蛇の鱗と言う事は……。


「すと、れす……?」

「ええ。……かなり無理してる。だからほら、早くご飯を食べて、本格的にお休みしちゃおっか。そしたらもっと楽になるかもよ?」

「……。……陛下がそう、仰られる……なら。」

「……やだ。」

「……離して、ホワイズ。」

「……やだ。」

「いやいや、ホワイズ。離さないとティアが飯食えないって。」

「……やだ。」


 ……離してほしいんだけどな、そろそろ。


「……ほわい、ず。お腹……空いたんだ。」

「……。……ん。」


 ようやっと解放された……。


 未だ触手達の抱擁に包まれたまま、他の何人かにも支えられたまま少し離れた所にあるテーブルへと視線をやればこれもこれで酷く色とりどりで、かつ目の保養にも十分なりえるスイーツの類が無数に並んでいる。

 しかし、俺の記憶が確かなのであれば俺はまだ夕食すらも食べていないはずだ。

 だと言うのにテーブルには並べられている物は何もかもがスイーツだ。

 酷く甘そうな物や果物の甘さを活かしていそうなケーキのような物だったり、はたまたクッキーのような物だったりと色とりどりだ。


「……料理長に、怒られそう。」

「今日は良い~のっ! 頭も使ったし、体もかなり動かしたからね。……元々ティアちゃんは食だって細いんだし、たまには多めにカロリー取らなきゃ。」


 あれよあれよとソファに座らされ、差し出されたサクランボのタルトは頬が零れ落ちてしまいそうな程に美味しい。

 果物が本来持っている甘みが非常に丁度良く、街の中にあるカフェなので出されている甘味の類とはまた違い、左程砂糖などを含まれている様子のない天然のこれが何よりも丁度良い。

 誰もが俺に食べさせる事の方が目的のようで、一向に自分達の口へは何も入れないままにぱくぱくと口に放り込んではまた空にしたばかりの皿へと新しいスイーツが乗せられて。

 それらを1つ1つ、大切に楽しみながらも食べていればいつかは限界が来る物で。


「……ん、もう良い。」

「そうか、ならもう休もうか。」

「じゃあ残りはまた今度だな♪」

「ゆっくり……休んで、良い、から……ね、ティア。」


 最後に飲まされた紅茶にはいつの間にか睡眠薬の類が入っていたらしく、意識が急速にその成りを沈めていく。

 背中と膝の裏へと腕を滑り込められた腕からの体温は非常に温かく、そのままゆったりと意識を落とした。

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