第9話 恐怖も絶望も、全て腕の中で溶かして
「ティアちゃんの様子がおかしいってほんと!?」
「……へい、か。……へいか。」
「……おいで、ティアちゃん。」
陛下の懐が開かれると共にぶわり、と陛下の毛先が黒い触手へと変わり、ゆらゆらと揺れながらも俺を待っている。
それはまるで闇夜に静かな風に靡かれて揺らぐ森林を地面から見上げて視界に入る草木のように、枝達のように心地良さそうで。
それが揺れると共に薫ってくる、酷く甘い匂いと薄いけれども黒だと分かるベールのような物が辺りをふわふわと舞っていて。まるでカーテンのようなそれは匂いと共に周囲を漂っており、段々と意識が更に朦朧とし始めていて。
……。
相変わらず優しそうな表情のまま、心の底から待ち望んでいると言わんばかりに大きく広げられた懐が酷く恋しくて。
何とか足を動かしてベッドの上へと上がり、陛下の懐にて力尽きるように座り込めば離さないと言わんばかりに優しく呑み込まれ、撫でるように。摩るようにやんわりと、ゆったりと絡みついてくる触手が肌に触れると共にずるり、と力が抜けてしまい、そのまま陛下の膝元へと崩れ落ちてしまう。
ただ、もう体を動かす事は勿論の事、動かそうとすらも気持ちすらも湧かなくて。
むしろ、普段であれば絶対にしないはずだと言うのに、今は頭がふよふよとしていて自分にとってどうでも良い事など、欠片すらも。意識の端ですらも息を許されない。
抱き着くように、縋り付くように抱き着いても特に咎められる事もなく、生身の手には頭と背中を優しく撫でられて、俺の体を包み込んでいるとも。これもこれで、これなりに抱擁していると言わんばかりに俺の体へ絡みつくそれにも彼方此方を優しく撫でられて。
……まるであの時と同じように、不思議と不快感はなく、その代わりと言わんばかりに心の底から安堵が湧き上がる。
……眠い。
「てぃ、ティア……。」
「ん~……思ったより重症みたいね。皆は夕食の準備と、食後のお茶会の用意をお願い。それまで私がティアちゃんの安定化を試みてみるから。」
「「「「了解しました、女王陛下。」
「……さぁ、ティアちゃん。そのまま溶けててね。」
どさり、と仰向けになるように体を横たえられては装備やら服の裏に隠している武器の類が丁寧に回収されていく。
酷くぼやけて見えない視界はまるで海の中から外を眺めているような光景で、少しばかり不安になって手を伸ばそうとするもいつの間にか手をそれぞれ別の触手の類に捉えられているらしく、動かしたくともそれを許してくれそうな様子はない。
ローブも脱がされて、ナイフも、拳銃も取り上げられて。
首元も緩められ、優しく触手によって髪を掬い上げられたかと思うと今度は優しく櫛を通され、また別の束を取っては綺麗に梳かれていく。
……へい、か。
「今からマッサージするからね。痛かったらちゃんと言うんだよ?」
「……ふぁ、ぃ……へ、ぃか……」
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