第8話 フラッシュバックは憑いてくる

 遠く聴こえる雷鳴がまるで脈動する大地のように唸り、時折魔法によって操られたそれは敵陣へと降り注いで多くの命を散らす。

 轟く雷鳴の激しさと存在感は酷く強く、大きく、如何なる物をも許容せずに全てを穿っては粉砕していく。

 ぼんやりとする意識の中、ぽたぽたと頭から腰の辺りまでざーざーと降り注ぐ雨の感覚が冷たかったと言うのに、今となっては最早何も感じない。

 寒さも、面倒さも、不愉快さも、何もかも何処かに


「グレイブ・ブラッディル=ルティアッ!!」

「い、るぐ……?」

「……大丈夫か。随分と長い間ボーっとしてたぞ。」

「……。……ぁ。……ぁ、れ。敵、は……?」

「半数、以上……ティア、が倒した、よ。」


 顔を上げれば見る気もないと言うのに視界へと自然に入り込む、何処から発生したのかも分からない、元は無数のゾンビだった物がただの肉塊となっては血や臓腑を撒き散らしながらも転がっており、雷を伴う大雨で地面を更に、無造作に散らばる肉塊や血で汚染されたと土地をじわじわと拡げていく。


 ゾンビ。……ゾンビ。


 早く殺さなければと、1体でも撃ち漏れがあれば困ると体を起こそうとするもそれはどうやらギルガ達にとって気に入らない事のようで、軽々と抱き上げられたかと思うとそのままいつの間にやら直ぐ傍に止めていたらしい装甲車の中へと運び込まれ、座席へと降ろされる。

 何故か酷く意識が朦朧として、時々引き起こす魔力消費が激しくて眩暈を起こした時のような、そんな感じだ。

 ただだからと言って俺の記憶ではそこまで魔力を消費した覚えなんてなく、だからこそ目の前で酷く慌てた様子の皆がよく見える。

 一応は風魔法の類で髪や服を乾かされ、長く雨に打たれ続けていたのかそれを懸念するように毛布で包まれ、安心させるように。落ち着かせるようにぽん、ぽんと添えられる手の温かさと安定した規則的なテンポが心地の良い睡魔を誘う。


 ……ぅ、ん。


「……帰ったら陛下に相談しよう。お茶会もして、ちゃんと風呂に入って温まって、気持ちが落ち着いたら休もう。色々あって流石のティアも疲れたんだ。」

「大方、今日は結構な大雨だからな。……自然と昔を思い出して、無意識に体が理解する事を拒んでるんだ。もう無理をするな、ティア。……とりあえず今は休むんだ。」

「大丈夫……大丈夫、だか、ら。傍に居る、よ。」

「ほら、傍に居てやるから休め。……大丈夫だから。」


 順調に揺らいでいく視界は泡沫の如くぼやけて溶けた。

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