第7話 扉は開かれた

「……はぁ。」


 どさり、と疲れに疲れた体をたった半日程度しか空けていないと言うのに、それでも随分と懐かしく感じるソファへと身を沈ませる。

 元々動物には比較的好かれ易いたちではあるのだが、それでも動物であろうと人間であろうと、ここまで無条件に。いつ如何なる時であれども全力で此方に要望に応えてくれる存在もそう居まい。

 勿論やらなければならない事、これよりも遥かに優先しなければならない事もあるにはある。

 追加で出されたらしい書類の確認だったり、どうしても俺を教員として在籍させていたいのか副教科の教員としての在籍だったり、はたまた今度は対生徒ではなく対教員への教育職の提案などと色々と諦めが悪い。

 ただ、それでも今だけは。今しばらくはもう少しばかり休ませてもらいたい。切実に。


 まぁ良いだろ、少しぐらい……。どうせ今の俺はフリーなんだし。


 そもそも、俺の認知度は未だ低い方だ。

 前回の自己紹介と言うか、自己アピールにも近しい大きな口の影響から良い意味でも、悪い意味でも認知度が急上昇している可能性はある。

 まぁそれの張本人たる俺の、かなり個人的な上に正直な本心としては本職に叩かれる経験などそうそうないのだから、これを良い機会と捉えて一度自分達の在り方を考え直してほしいとまぁ一応は教員らしい事を考えていたりはする。


「まぁ、思うだけだがな。」


 ディアルが何をどう言おうと、それでも仕事が出来ない人間をいつまでも雇用する事は出来ない。

 このまま勇気もなければ度胸もなく、意地もなければプライドの欠片もなく、本当の意味で勉学に対し、勤勉に。従順過ぎるまでにそれらへ従属する気概のない、中途半端な奴らの相手をする気は毛頭ない。

 どうせああいう奴らは途中で諦めるんだ、この程度で怖気づくような奴らなら今この場で脱落していれば良い。

 コンコンコンッ。


「はーい……?」

「お帰り、ティア。」

「あぁ、シャルか……。ただいま。ただ悪いんだが、今の俺はかなり寝惚けてる上に結構疲れているからあんまりしっかりと構ってやる気はないぞ。」

「何よ、私がそんなに構ってちゃんだと思ってるの?」

「7割は。」

「残念、7割は心配。3割は構ってよ。」

「認めてんじゃねぇか。」

「それよりも、それよりもよ、ティア。貴方達が出掛けている間にね、ちょっと近くにある紅茶屋さんに行ってきたのよ。それに合わせてお菓子も幾つも焼いたの、良かったらどう? 疲れてる体には良いんじゃない?」

「……それは、確かに。じゃあ貰っても良いか、シャル。」

「えぇ、勿論!」


 自分でもこう思う、昔に比べて随分甘くなったと。

 とはいえこれが今の俺にとって都合が良い事であるのや、はたまた丁度気晴らしが欲しい頃だと思っていたのは紛れもない事実。……これくらいは騙されて良いだろう。

 どうやら俺が休んでいる間にある程度準備が終えられていたようで、体を起こして直ぐに見えるローテーブルにはもう既に色々とテーブルセットが用意されており、魔力を用いた障壁の類でテーブルごと包んで時を止めていたらしい。また気付かない内に、若干意識が飛んでしまっていたらしい。それか、単に注意が逸れていただけか。


 こいつだけ見てたらあの教室の生徒共があんなに無能な訳がないんだよなぁ……。

 となるとこいつの教え方が悪いか、それか授業体制が悪いのか、はたまた生徒共がこいつを下に見てるかのどれかなんだよなぁ……。

 ったく、ガキの内に無用な上下関係なんて教えるからこうなるんだ。

 先代達が努力してようやっと貴族になったって言うのに、自ら階級落ちしようとする無能の多い現代は全く以て嘆かわしいばかりだ。


 なんて俺の懸念は当然シャルに聴こえている訳もなく。

 魔法が解除され、匂いや視界から得られる情報だけで食欲や興味を強くそそられてしまうカラフルなティーセットは疲れたこの体に酷く効く、最早麻薬の類だ。

 生憎、俺は日頃からあまり甘い物を食べる訳ではない。

 たまに食べる程度であれば甘味は歓迎なのだが、だからと言って甘過ぎる物やその頻度が増えるのは此方としても非常に願い下げではある。

 だが、今回は何度も言うように疲れている。

 戦場で敵を切り倒しては放り投げ、はたまた陛下の首を狙ったり、陛下に対して生意気な上に身の丈すら弁える知性すらも持たない鳥以下の脳しか持たない屑共を蹴散らすよりもずっとずっと今の生活の方が疲れる事が多い。

 何もかもが未知数で、何もかもが予測不能となれば変に気が散って集中も難しければ気を休める事すらも難しい。


 このままお役御免になれれば楽なんだけどな〜。


「良し。じゃあ召し上がれ。」

「どうも。」


 ……うん、やっぱり美味しい。


 日頃から陛下や皆に散々甘やかされている関係もあり、望まずしてそれなりに舌が肥えてしまっている美味しいと感じてしまえる程の丁度良い塩梅の甘味とその甘さを落ち着かせるハーブティー。

 甘過ぎる物が苦手な俺としては甘みも気持ちも落ち着かせてくれるこれは本当に、心底丁度良い。


「ふふ、そんなに気に入った?」

「あぁ、かなり。緊張が抜けていって丁度良い。」

「……。」


 ……?


「シャル?」

「実は、ディアルにちょっと相談したの。食物アレルギーとかもあったら知りたい、って思ったし、もしかすると貴方は嫌かもしれないけど、子供の居ない私達夫婦にとっては可愛い娘が出来たみたいで嬉しくって。……だから何とかして錯覚でも良いからその肩の荷を軽くしてあげられないかな、って。あ、も、勿論私が勝手にそう思ってるだ、だけだからねっ?」

「……あぁ、分かってる。お前らみたいなお人好しが俺を騙す事なんて出来ないからな。それなりに信頼してるさ。」

「ほ、ほんとっ?」

「言っても仕方ない嘘なんて価値ないだろ……。」


 本当にこの夫婦はよく似てる。

 何方も優しく、何方も甘く、時と場合によっては深くすらもなり得るこの夫婦の近くは実に心地良い。

 良い感じに距離感が保たれている事からこの夫婦の何方かと話している時は比較的気分が楽だ。

 あまりにも俺を甘やかしたいばかりにこうしてお菓子を渡してくる事はよくあるのだが、それでもちゃんと飲み物の方でその甘さを中和させてくれるような物を用意してくれたりと完全には甘くないこの関係が、この距離が俺には至極丁度良い。


 まぁ、全面的に甘過ぎて頭も意識も惚けてしまうような場所はあいつらの隣だけで十分だ。


 コンコンコンッ。


『ルシェル・シルジェ=グランゲールです。』

『トルカ・シュエル=ケリューカです。』

『セイズ・ブレイル=リューンジです。』

『『『ルーベル先生とお話の時間を下さい。』』』

「あら、貴方の演説に惹かれたこの学校の1年生の中でもトップクラスの3人が来たわよ。」

「……面倒だからこのままフードだけ被って迎え入れて良いか。」

「貴方が良いなら良いんじゃない?」

「……入室を許可する、入り給え。」

「失礼しま……、し、失礼、休息中でしたか。」

「お、お時間をずらした方が宜しいでしょうか、ルーベル先生。」

「いや、構わん。……で?」


 確かに、ここへ彼らだけで来たと言う熱意は称賛に値する。

 初顔合わせの時もそうだったが、この3人は本当に随分と肝っ玉が据わっているらしい。

 まぁしかして戦場も然り、現場と言う所ではいちいち誰かの指示を待つよりも自分達で、独自で考えて行動する事の方が多い。

 仮に指示を貰えたとしてもその多くは、その殆どは大まかな物や大雑把な物が多く、結局はきっかけを貰っているだけで実際に作業するのはいつだって現場の人間だ。

 そんな中で自身の価値観や考え方から自分なりの答えを見出し、もっと良くしようと言う向上心や工夫。更には精神的な物事の見通しの良さや、はたまた視覚的に全体がよく見える視野の広さが必要になる。

 だが、意外にもそれが現代の学生達には備わっていない事が多い。

 それもこれも親の七光りだったり、誰かに与えられる事や誰かに押し付ければ良いやと甘えに甘えた生温い上に吐き気がする。

 親が腐った結果、何の特別性もないのに努力を怠って、更にはそれを子供にまで伝染させた結果の社会の膿だ。


 さぁ、こいつらは何処までお綺麗なのやら。


「ルーベル先生。改めて、お願いがあります。」

「あぁ、何だ。」

「「「俺達にルーベル先生の授業を受ける権利をください。」」」


 権利……か。


 一応、この学校以前にここ、ネビュレイラハウロ帝国では陛下が定めた法律上で定められている通り、副教科や必須履修科目ではない科目と言う物は当然の事ながら生徒に履修を断ったり、選択する権利があるように、それを進行する教員側にもそれを断る権利や選択する権利が存在する。

 その為、未だ社会に疎い子供達と言う物はそれすらも知らずに教員側の気持ちや立場なども考えず、「応えてくれるのが当たり前」と言う固定概念だけが生きているような物。それを理解せず、それに疑問を持たずにただ生きるだけの生徒も世界中に多く居るし、むしろその方が主流だ。

 “学費を払ってるから”、“それが仕事なんだから” とはよく言うが、だからと言って彼らは生活の為にその職業を選択しているだけに過ぎない。

 基本的には教科書に書かれている内容だけを教えればそれだけで良いと言うのに、それでも彼らは更に分かり易く伝わるようにと努力をしている。

 ……努力は義務ではない、その人の向上心やその人がやりたくてやっているだけの善意のような物。

 それですらも仕事の内だと簡単に言ってのける色眼鏡の就いた学徒ってもんは悍ましいもんだ。


 まぁしかし、こいつらは多少マシかもしれんな。


「……ほう、権利と来たか。」

「はい。他にも色々と考えましたが、これが1番最適解だと3人で相談しました。」

「成程、続け給え。」

「俺達はどうしても魔法を学びたいんです。俺達の、野望の為に。」

「野望。」

「はい。俺達は魔法を使い、組織を作りたい。……世界を引っ繰り返し兼ねないような、そんな組織を。」


 あぁ、随分と懐かしい言葉だと思った。

 それと同時に、こんな子供にそんな事を言わせるような時代になってしまったのかと、少しばかり世の中に絶望したのも1つではある。……しかし、だからと言って立場上それを許す訳にはいかない。


 個人的には評価してやりたいんだがなぁ。


「んなっ!?」

「随分と危険な発想だな、お前達。教師としても、本職としても今の内に摘むべき思想であり、何より反社会的な思想だな。……お前達がどう言った組織をゴールラインとして設定しているのかは知らないが、それでもかなり無謀な上に着いてくる者がそう多くない事も分かっているはずだと思いたいんだがな。」

「ちょ、ティア……!」

「はぁ……。あのなぁ、シャル。俺は教師である前に軍人であり、俺達は教師や軍人である前に大人だ。教師と言う物は本来子供に何が正しくて、何が宜しくなくて、そして何がなければ生きていけないのかを教えていく、言わば大人の模範。そんな奴らがそうやって子供を護る為、な~んて綺麗事を並べて昔よりも更に経験の少ない環境を与えて何になるんだ。そもそも、そもそもだ。学校と言う物は如何なる名前や如何なる専攻科目を得意としているようとも社会を模倣した箱庭である事は何も変わらん。そして、その箱庭をわざわざ作ったのは社会を学ぶ為、ただ1つだ。その学習の範囲は非常に広い訳だが、それでも人間としての社会性や人間として文化的な生活を行う為の知識、場合によっては彼らの将来を決める脳の回し方や考え方、価値観、そして視点を少しでも多く獲得させる為の箱庭だ。……それに至らせる為、それに集中する為に用意され、確立されているのが学園と言う名の箱庭だ。……大人ってのはそうやって直ぐに少しでも危険性のある物を隠したがるが、俺はそんな学校体制が実に不快だ。」

「ど、どういう事……?」

「子供の好奇心の危険性を、俺達大人は知っているはずだ。だと言うのに大人はその好奇心を抑える訳でもなく、制御する訳でもなく、その術を教える訳でもない。結局俺達大人がどれだけそれを抑え付け、それを考えたり考慮するのを面倒がって楽しているだけだ。……子供の好奇心はそう簡単に抑えられないぞ、シャル。子供の一番恐ろしい所は好奇心だ。だからこそそれを自制する為の術を教えるのが教師や親であり、その危険性を正しく認識させるのが教師や親だ。それを怠り、楽した結果に虐めや不良が横行してさぁー結局最後はこう言うんだろう? …… “こんな事になるとは思わなかった”、って。」

「ッ、」

「……世の中にはそれを怠って、結局はそんな言い訳しか吐けない生きている価値があるのかどうかも分からん蛆が多い。そして、そういう奴らも魔法が発展したこの世界では俺みたいな軍人がしょっぴかなきゃぁいけない事もある。……本来であれば国家の防衛をしなければならない身の人間が、ただの一般人に。国家公務員だと折角認められる程に成績を納め、努力を行い、ようやっとその地位を手に入れたと言うのに継続した努力を怠った無能共の排除も俺達がしなきゃいけない訳だ。ふは、世の中には魔法が使えない人間だって居るんだ、そういう人達にとっては教員よりもずっと俺達軍人の方に期待して、俺達軍人の方を信用し、信頼し、どんどん自ら信用を失墜していく教員と言う物に当たりがきつくなり、更に関係が悪化していく悪循環がひたすらに続く。……だからこそ、俺達軍人の仕事を奪う為にも、減らす為にもお前ら教員と言う物にはもっとしっかりしてもらわなきゃ困る訳だ。」

「……そう、ね。私もそう思うわ。」

「同意が得られて嬉しいよ、シャル。……と、言う訳だ、学徒諸君。俺はこういう人間で、俺は綺麗事なんて吐き気がするから事実だけでしか喋らず、一切の怠惰を許さない。感情論なんて物を仕事に挟まないし、俺はただ自身の義務を果たすだけだ。……そんな俺に随分と大きな口を吐いているようだが、お前達には本当にそれだけの肝が据わってるのかどうか、お前達が最終的に俺の手によって命を摘み取られるような事態を望んでいるのであれば俺は今直ぐにでも陛下の為、帝国の為、そして規律ある平和の為に責務を果たさなければならない。……それでもまだ、お前達はそんな戯言を語るのか?」

「勿論です、ルーベル先生。俺達の気持ちは依然として変わりません。」

「ルシェルの言う通りです。それでも、それでも俺達は意志を歪める気はありません。」

「再度言う、俺の本職は暗殺者だ。俺達のリーダーであり、俺達の統括であるお方の言葉は絶対であり、そこに俺達個人の意見を挟む余地もなければ必要性も欠片もない。その証左に、俺があのお方を心の底から信用し、信頼し、心酔し、全てを捧げているからこそその証明としても俺が見た物。感じた物。全て、何1つ例外なく互いの同意の上で共有する事が義務付けられ、それを俺は果たし続けている。……そして、俺はこれからもそれを果たし続けて身を絶やす。それが俺の、あの方への絶対なる忠義であり、絶対なる信頼であり、そして絶対なる決意だ。……それでもまだ、お前達はそんな夢物語を語るのか?」

「それでも、僕達は諦める訳にはいかないんです。」


 引かない……か。


「……ここで、俺に殺される可能性もあるが? お前達の家族も皆、国家転覆罪で塵殺しなければならない事ですらも軽くありえるが?」

「「「覚悟の上です。」」」


 ……あぁ、良い。良いなぁ、こいつら。


 教員に牙を剥く大人や子供は多いが、しかして軍人に対して牙を剥く大人や子供は少ない。

 それもどれも、教員が比較的破り易い印象が就いてしまっている法律とは異なり、軍人と言う物は教員よりも比較的早く、かなり早く、手軽に人を殺してしまえる上にその行動に対して罪悪感を抱く事もなく、あっさりと手に掛けてへらへらと余興を愉しむ訳でもなく、何事もなく日常に戻って直ぐに忘れる残酷さがあるからだ。

 ただ、子供にはその残酷さや残虐さを今こそ教えておくべきだと俺は思う。

 そうでなければ子供の好奇心と言う物はブレーキを掛ける事などなく、いざと言う時にブレーキを掛けた所で意志力の方が勝ってそのブレーキを完全に壊してしまう事の方が多い。



 だからこそ、今の内にブレーキの使い方を教えておかなければならない。



 敢えて残虐や残酷の前に出し、それがどう宜しくないのか。それがどれだけ胸糞の悪い物なのか。それがどれだけどう言った理由でそう思われているのかをそれぞれの言葉で定義させ、それぞれに深く植え付ける事こそが一番の教育だ。

 その最たる物が戦争だ。

 無論、戦争と言う物は忌むべき物ではある。

 ないに越した事はないが、だからと言って戦争全てが悪い訳ではない。何処かの国に攻め込まれ、防衛の為に戦争をする事。対抗する事。抵抗する事を誰が責められようか。誰かを救う為に行う戦争の何処に悪があろうか、後ろに護らなければならない物を背負って戦う者達をどうして責められようか。


 ……ま、経験した事がない奴らに言った所で無駄だ。


 だからこそ、分からせる為に経験させるのが一番であり、そこに己のちっぽけさと善悪を正しく理解する事がどれだけ必要なのかを考えさせる事こそが真の教育だ。


「……ふ、ふふ。ふはははははは! あぁ、良い。実に良い。子供はこうでなくてはならない。前言撤回だ、中途半端な生徒諸君。改めて名乗り給え。」

「る、ルシェル・シルジェ=グランゲールです。」

「トルカ、トルカ・シュエル=ケリューカです!」

「……せ、セイズ。セイズ・ブレイル=リューンジです。」

「そうか、そうか。それではお前達にはまず、偽名を作ってもらわなければな。」

「「「「ぎ、偽名?」」」」

「あぁ。最も初歩的で、最も大切な物。……くく、何を惚けっとしてるんだ、お前達は。もう俺の授業は始まっているんだ、いつまでも呆けていないで努力を再開してはどうかね。ここからは俺とお前達との1対3の戦争だ。お前達は今、その戦争の最前線の土を踏もうとしている。あまりにも理不尽で、あまりにも個人の努力の度合いによって個人差の出る、真の平等だけが息をする過酷な、未熟な人間である子供が最も一番初めに経験するべきである戦場だ。……呆けていると容易に死ぬぞ? さぁ、お前達の名を再度告げろ。」


 少なくともシャルやディアルに用意してもらった資料を見る限り、恐らく彼らは偽名の必要性や重要性を碌に理解していない。

 先の反応を見る限り、それは最早折り紙付きだろう。


 お前達が何処までやれるのか、そのやる気が続く限りは面倒を見てやるさ。


「……ルシウス。ルシウスです、先生。」

「ルシウスか。お前の魔力に丁度良いだろう。」

「!!? せ、先生は魔力が見えるんですか……!!?」

「俺としてはこれくらい出来て当然で居てもらわねば困るがな。」

「お、俺はトルニアです。」

「トルニアか。お前には似合わんがお前に惹かれる者達を見ればそうとも言えんか。」

「惹かれ……?」

「……セディルズ。セディルズは、どうですか。」

「セディルズか。なかなか良いじゃないか。では、俺はグレディルアと名乗る。以後、互いの事を偽名で呼ぶように。良いな?」

「「「はい。」」」

「シャルロット先生、第3運動場を借りたいんだが手続きにはどれくらいかかる?」

「え、い、今から?」

「ああ、勿論。……ん?」


 ゆったりと扉が突如として開いたかと思うと、かなり見慣れた隻眼の真っ黒な鴉が飛んでくる。

 その嘴にはこれまた見慣れた紅い蝋で固めた黒い手紙を咥えて俺の座るソファの背もたれの上へと降りてくる。


 あー……またか。


「か、鴉……?」

「……ティア?」

「……。……どうやら招集らしい。シャル、明日の夕方頃から夜にかけてで良い、第3運動場を借りられるように手配しておいてもらえるか?」

「うん、分かったけど……気を付けてね?」

「あぁ。それと、悪いが今日の帰りは日付が変わりそうだ。」

「……ちゃん、と。ちゃんと帰ってきてね。」

「あぁ。」

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