第一章:一年生第一学期
魔法の深淵と神髄に触れる資格は
第1話 まずは壇上に上がる所から
まぁ、絵に描いたような奴らばっかりだな。
教員が教鞭を執る教卓から段々と奥に行くに連れて高くなっていく座席。
正直言って俺としてはこんな風に生徒側を高くするから教員を見下ろしているうちに眠くなって居眠りする奴が多いのではと思ったのだが、実際にこのような場所を見るのは俺としても初めてだ。
教卓の前には申し訳程度の何もないスペースが存在し、大方ここを利用して魔法の類を行使したり、はたまた生徒同士で魔法の性能やら成績を競ったりするのだろうか。
そんな物、正直言ってナンセンス。
大体、たかが未だ1年生の身で。こんな狭い場所で広さに適合するように制限された魔法を打てる程に第1学年が優秀なはずがない。
それこそこの教室が6年生だったり、はたまた4、5年生だと言われれば納得が行くがこれは本当にありえない。
なんて、風に思っている人が少ないからこそこのありさまなんだろう。
ぱっと見る限りでは生徒達にも貴族達が多く見られ、威張る事しか知らん彼らよりも少数でも残っている平民の生徒達の方がまだ好感が持てる。
本来、貴族と言うのはそういう物だ。
親がぶっ飛んでいるか、はたまた子供その物がぶっ飛んでいるかの何方かが非常に多く、まともな類は本当に片手で数えられる限りしか居ない。
それがこの教室でなのか、この学園でなのか、の2択でしかないと言う事だけ。
……望み薄だな、これは。
「彼女が今日から皆さんのクラスの担当となりました、グレディルア・ルーベルさんです。ルーベル先生と呼んであげてください。彼女は国家のとある組織でのお仕事もありますので、彼女が居ない場合は私が授業をします。……しかし、私はこれから基本的に魔法を皆さんに教えません。」
思い切りやがったな、この野郎。
生憎、俺としてもこんな生徒達は持ちたいとは思えない。
今だってシャルの言葉を聞いて以来どの生徒も狼狽え、どの生徒もざわざわと喚き立てる始末だ。
まぁそれもこれもシャルが普段、それだけ良い教員であると言う事の証明とも思えるのだが、それを引き継ぐのは正直言って不満があり過ぎて困る。
折角慣れないスーツに袖を通し、大人しく口を開かずにシャルのやりたいようにさせてはいるが、これは後で正した方が良いだろう。
「生徒達の不快感、及び不信感を感知。前言撤回を要求する。」
「何で機械みたいな話し方してるのよ。」
「はぁ……。あのなぁ、シャル。最初も行っただろう。俺は本職の関係もあって、勿論新兵を鍛える事だって多くある。……そんな中、欠片のやる気もない奴らを教育する事に意味も、価値も、必要性も見い出せない。だから俺は1クラス丸々持つ気は欠片もない。」
「むぅ……。じゃあ、じゃあティア、こうしよう? 1度で良いの、是非ともティアの実力を見せてあげてほしいの。」
この狭い教室で? 正気か、お前。
どうやら正気らしい。
そう言わんばかりの確固たる意志を持ったその視線はまるで俺を射抜かんばかりに視線を投げ続けており、これでは反論さえ許されそうにはない。
「……俺の力は相手を確実に殺す為の物だが。」
「しないって、信じてますから。」
あぁ、大嫌いだ。
とはいえ、確かに日頃教育係を任される俺としても実力のない者に。又は、実力を見せない者にあーだこーだと戯言を並べられても一切信じる気にも、何なら考慮する気にもならないのは事実だ。
ならばここらで俺の実力を見せ、彼らの決意を。彼らのこれまでの努力を全て無駄にしてやるのも面白いかもしれん。
この学校に通えたからと頭に乗っている阿呆共に世界の広さと言う物を。本物の強さと誇らしさを教えてやる良い機会かもしれん。
卑怯だなどとは言ってくれるなよ、ひよっこ共。
特に詠唱もしないまま、ぱっと掌を開け出させた右手へ何の属性もない魔力を結集させ、ある程度集まった所でその性質を、指を弾くように変換してやる。
優秀な事に、瞬時に俺の出した命令を理解したそれらの魔力は強力な電圧を放ちながらも帯電し、そのままぽんっ、と手元から放す。
空中へと放り出された高電圧を纏った魔力は解放する前に出した俺の命令に対し、従順に従ってその姿形を大きく変える。
ただの球体だったそれは力強く、太く、大きな2本の腕を生やしてはそれに引き摺られるようにして頭を出し、尾を出し、2本の足を出し、その姿は帯電するただの球体から魔法が好きなら誰もが大好きなドラゴンへと変化する。
ひゅんっ、と指を動かしてやればそれに従うようにして大きな咆哮を挙げ、生徒の何人かが怯え慄いて椅子から転げ落ちる程だ。
ふん、やっぱりこの程度か。
「では学生諸君、貴様らに問う。これの原理を解明し、説明し、そしてこの技術を完全に模倣出来る者は手を挙げろ。……どうした? 遠慮は要らん、さぁ手を挙げろ。」
……はは。
「それがお前達の実力だ。それに、これはやっとはいはいが出来るようなガキでも出来てしまう簡単な技術を応用した物。そうだな……11か12なら余裕で出来るような魔力量で再現出来る。」
「……それ本気で言ってるの、ティア。」
「あぁ、勿論本気だ。俺は本職だぞ、シャル。この程度も出来ずしてプロは名乗れん。……まぁでもこれで分かっただろう、シャル。この程度で驚いているようではこいつらに魔法の真髄を学ぶ資格も、深淵に触れる資格もない。……1年生諸君、君達に問おう。ここに居るのは貴族が大半を占め、一部が平民と来たもんだ。しかしてお前達が本当に貴族を名乗る資格はあるのか? 貴族に相応しい仕事はしたのか? 貴族を名乗るに相応しい実力を持っているのか? 答えは否だ、これが出来んのだからお前達にその資格は欠片すらも存在しえない。何故お前達は貴族と言う階級が当たられているにも関わらず、両親に教えを乞わなかった? 教えを乞わずとも書架の類の1つや2つは屋敷に持っているはずだ。……なのに何故お前達はこれに対し、狼狽える以外の選択肢を持たないんだ。ふん、答えは簡単だ。お前達にその実力がないからだ。」
そして、熱意も。
やる気のない者に、無理に知識を与えた所で時間を捨てるだけ。
努力をしない者に、無理に努力を強いた所でただの徒労で終わる。
そんな物は懲り懲りだ。
「……悪いが、見た目だけで相手を判断し、本当の魔法を、本当の世界を知ろうともせずに己の殻に閉じ籠って “俺は賢いんです” ってキャンキャン吠えてるガキのお守りをするくらいなら俺は本職に戻らせてもらおう。」
「ちょ、てぃ」
「悪いが、俺は軍人だからな。やる気もなければ、努力もしない。与えられた知識と力だけで満足するような中途半端で自分勝手なナルシストを躾ける方法は首輪を着けてひたすら嬲り続ける以外に知らん。……悪いが、ガキのお守りの仕方は知らんのでな。……と言う事だ、シャルロット。こいつ等は俺が教えるに値しない。お前も教師なら知ってるだろ? やる気のないガキに幾ら知識を詰め込んだ所で所詮は底辺から這い上がる事は出来ない事を。」
「ッ……。」
「元来、授業は教師と生徒の1対1の戦いのような物だ。教師が教鞭を取り、授業を通じてその教師から利点や才能、知識を奪う。そして、教師はそれ等をばれないように、でも必要最低限の教育を与える。巣の中から出てこず、ピーピー鳴いていれば餌をくれると思っているような雛の世話をする程暇じゃないし、そういう事の為に存在する職業じゃない。故に、こいつ等は魔法の深淵に触れる資格を一切持たない。さて、証明終了。俺は部屋に戻る。」
「ルーベル先生、発言しても?」
……ほう?
「あぁ、構わないが。」
「幾つか質問させてください、ルーベル先生。先生が今から行う予定だった授業は、魔法その物の授業ですか?」
魔法その物……なぁ。
「そういう言い方をしてしまうと含意が広過ぎるな。」
「では改めます。魔法の概念や性質、特徴、相性。はたまた起源等を学ぶ為の授業ですか?」
「7割合格、と言った所か。」
「俺からも幾つか宜しいでしょうか。」
ほう、もう1人増えるか。
「構わん、何だ。」
「先生は魔法の効果範囲の拡張や魔力保有量をドーピング以外の方法で増強させる術なども教える事は可能ですか?」
「可能だ。が、1つ間違いがある。確かに俺はお前達に対し、それらの方法を授ける事が出来るがあくまでお前達が勝手に俺から盗むと言うのが正しい。幾ら此方がお前達に知識を、技術を授けようとお前達に学ぶ気がなければ欠片程の価値もない。だからこそ俺は俺が作った教材を元に授業を行い、その上で得た物。感じた物がお前達の糧になるだけの話だ。」
「はい、先生。授業を聞いた上で疑問に思った事や確認したい事について質問する事は教えると言う定義に入りますか?」
ん、また増えたか。
「入りはするが、そもそも俺自身が答えを教える気は一切ない。ヒントと、答え合わせくらいはしてやるつもりだった。」
「授業中の質問は?」
とりあえず、今特に分かった事は1つ。
今現在俺に質問を立て続けに行っている3名を除き、他の者は皆臆病者か、はたまた心が折れたかの何方かだろう。
ならばここで長くだらだらと喋る必要もなさそうだ。
まぁ、やる気があるなら勝手に俺の居場所を探しに来るぐらいは出来るだろうしな。
「あらかじめ、授業の中盤辺りか内容がややこしくなった際にのみ質問タイムを作るつもりだった。それ以外であれば話1つ理解出来ない者とみなし、次回より授業に参加させない予定でもある。つまりは授業前、授業後、はたまたそれ以外の時間であれば幾らでも受けてやろう。但し、あまりに阿呆な質問は全て蹴り飛ばす。俺も暇じゃないんでな。……一応、この学校の一介の教師ではあるがそれはこの服を着ている場合のみ、だ。そもそも俺は自分が信用出来る物以外は激しく毛嫌いする人種でな。厳しいと言われようが何と言われようが、そもそもこの授業は自由選択科目に入る上にやる気がないと判断した場合はその生徒の受講その物を蹴飛ばす権利ですら校長から譲られている。文句があるなら好きに言い給え。これだけ言われても尚、最後までルールを守りつつも魔法の深淵に触れてみたいと言う物好きは俺を納得させられるだけの理由と覚悟を持って俺の決定を覆す為に直談判しに来るんだな。校長に直接言って、その上で時間と場所を設けてもらえ。代表とか、纏めて、とかそんな甘ったるい話も却下だ。じゃあな、中途半端ながき共よ。俺を納得させられなかった者は今日が最初で最後となる会話だ。まぁ、精々足掻け。」
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