5月11日 8:05

伊関淳也

『あー…いきたくねえ。』

思わず声に出ちまった。


俺は今施設の介護用ハイエースを走らせ、とある利用者の家に向かっている。


ハイエースの横っ腹には「まごころ介護 デイサービスゆりのき」と書いてある。


まごころ介護は良いけど、基本給17万でコキ使われる29歳の俺ってどーなんだって感じ。



そりゃ《利用者の金にも手ぇつけたくなる》わな。


最初は財布から2、3枚札を頂戴するつもりだけだった。

婆さんの入浴介助中こっそりと。


けどそしたら札はおろか小銭もねぇんだもんよ。


だからせめても、ってカード抜いた。


んでダメ元でATMで婆さんの誕生日入れたら暗証番号クリア。


婆さんよ、セキュリティーがガバガバすぎだって。



って言っても下ろしたのは合計10万ちょっと。


さすがに全部抜いたらまずいかなって。


でもこの婆さん、預金の桁が8個だよ8個。


びびったわ。




それよりびびったのがこの間の婆さんからの電話。  


『全部知ってるのよ。』



って。



ボケてなかったのかよ糞ババア!!



今はその婆さん、久瀬さんのお宅に向かっている。


どうしよう、素直に謝るか?しらばっくれるか?

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