第5章蓮条椿の襲来⑫

 思わず上げてしまった大声に、播磨君が「うぉっ?」と驚いて身体をびくつかせる。

「ど、どうした?」

「い、いえ。ちょっと予想の720度くらい上回る内容が来たものだから、つい」

 店員さんから飛んで来る営業スマイルの裏からひしひしと感じる「またお前等か」と言いたげな視線がちょっと気まずいわ。

 そうだったわ。播磨君と二人きりなことに浮かれてたせいか、完全に忘れていたけど、播磨君がここにいる理由は、蓮条さんに「冴羽君に二人きりでお礼を言う場のセッティングを頼まれたから」だったのよね。

 ただ、蓮条さんの真意がその言葉の額面通りだったとは限らないきがしてならない。

 ちょっと掘り下げてみよう。そう考えた私は、播磨君に冴羽君からのメッセを見せた。

「いくら播磨君から話を聞いてたとはいえ、突然これは反則よ。クラスの誰に見せても卒倒すると思うわ」

「はは、確かに」

「にしても播磨君もかなり大それたことをしたわね。いくら蓮条さんがハンカチのお礼をしたかったと言っても、あの本質的にあわなさそうな二人だけを残して出てくるなんて。冴羽君は言うまでもなく、蓮条さんとしても、貴方に残っていて欲しいと思ったんじゃないかしら」

「だろうな。あれは俺の完全な独断だったし。教室での一件も含めて、二人でちゃんと話す場を設けてやった方がいいと思ってさ。――にしても、くくっ、俺が健吾の部屋から出て行こうとする時の椿の顔ってば、今まで見たことないレベルで焦ってたつーか、不安たっぷりにしててさ」

 笑いが抑えきれないと吹き出す播磨君。

 この鈍感男ぉおおおおおおおおお!

 やっぱり思った通りだったわ。恐らく蓮条さんには播磨君とお近づきになれるって魂胆が半分くらいはあったはず。

 その目論見が封殺されたら、そりゃあ焦るでしょうね。おまけに冴羽君と二人で話すことなんて殆どないでしょうし。

 悪いけど私は、このチャンスを最大限に活かさせてもらうわよ。

「そうね。この件に関しては一度高宮さん、本人を交えてじっくり今後の方針を立て方がよさげな気がするわ。一度三人で集まれる場を設けてもらっても構わないかしら」

「おっけ。そしたら凛々乃にいつがいいか、聞いておくよ。進藤は来週の放課後で、都合のつく日はいつだ?」

「同好会は自由参加みたいな部分があるから、言ってもらえれば何時でも空けるわよ。これ、私の連絡先」

 そう言って、私はラインのマイQRコードを見せた。播磨君はそれを読み取ると、『よろしく!』とメッセを送ってくれた。やったわ、播磨君の連絡先ゲットよ!

 この流れにのって今日はもう一押し行くのよ私。

 テーブルの下で小さく拳を握って意志を露わにすると、私は覚悟を決めて口を開いた。

「あの播磨君、もし、この後も暇なら、ちょっとお願いしたいことがあるのだけれど……いいかしら?」

「ん? 別に構わないけど。あ、もしかして買い忘れがあったから荷物持ちを続けてほしいとか?」

「いえ、そうじゃなくて……あの、実は私――すた丼が大好きなのだけれど、あの手の店って女の子一人じゃ行きにくいから一緒に来てもらえないかしら?」

「へ、すた丼……? ははっ、なんか以外だな、進藤、すた丼が好きなんだ」

「わ、悪いかしら。お肉が嫌いな人なんてそうそういないと思うけれど」

「はは、それは確かに。わかった。俺でよければ付き合うよ」

「そ。ありがと」

 よっしゃぁ!

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