第5章蓮条椿の襲来⑦
結局お目当ての漫画とやらはアニメイドにもなく、そこから更に十分ほど歩いた先にあった本屋で無事発見された。
本を買いを終えると、
「今日はありがとう
席について飲み物の注文を終えると、進藤がぺこりと頭を下げた。
「お礼なんかいいって。どうせ俺も暇だったからな」
気にすんなとからからと笑う俺。
すると、進藤は何やら真剣な顔になり、重々しそうに口を開いた。
「……せっかくの機会だから、聞きたいのだけれど、今冴羽君の周りでおこりつつある不穏な空気について、播磨君はどう思っているのかしら?」
「不穏な空気――ってあれだよな。先週、俺が教室にいない間に健吾と椿の間でおこった、ちょっとしたいざこざが原因のあの――」
「ええ、そうよ。わかっているってことは、このままずっと放置しておく――というわけではないのよね」
「いや、今回の件に関しては、俺から特に行動を起こそうとは考えてないさ」
「えっ?」
進藤が驚きから目を見開く。
「今日二人だけで話したことで、流石に誤解は解けるだろうしさ。後はまぁ、流れに任せてなるようになるだろうよ。あのハンカチだって、健吾の手元に戻ってきてるんだからな。これ以上、変に拗れるってことはないだろ」
そう楽観的に笑うも、進藤は未だに剣呑な顔のままでいて、
「そう……。けど、この騒動で真に心配すべきは
「へ……?」
進藤が何を言いたいのかが見えず、思わずポカンとなる。
「恐らく
「……!? お、おい、今なんて――!?」
進藤の爆弾発言を頭が理解した時、衝撃を放出するよう思わずテーブルを叩いた俺は、前のめりになって大声を上げていた。
その突然の奇行に、注文を運んできていた女性店員が「きゃっ」と小さな悲鳴を上げる。それに気付いた俺は、何だかいたたまれない気持ちになり「すみません」と小さく呟く。
店員は「大丈夫です」と優しく笑って首を振ると、俺の下にオリジナルブレンドコーヒーを、進藤の下にキャラメルマキアートを置いて去って行った。やらかした。羞恥で顔が熱い。
俺はコーヒーを一口飲んで気を落ち着かせると、改めて進藤に恐る恐る問いかけた。
「あの、さっきの話なんだけどさ……」
同じようにキャラメルマキアートを飲んでいた進藤は、ゆっくりとカップをソーサラーの上においてから得意げに口を開いた。
「高宮さんが冴羽君に好意を抱いているのは、流石の貴方もご存じよね?」
「あ、ああ」
何で「流石」という単語が強調されていたのかはちょっと謎だが、まぁ俺自身、凛々乃本人の口から告げられるまで、まったく知らなかったわけだ。つーか、クラスのやつで自力で真相に辿り付いたやつなんて絶対にいないだろ。目の前の人を除いて。
「実は前から、高宮さんが冴羽君へちらちらと意味深な視線を飛ばしていたことについては気付いていたのだけれど」
そういや凛々乃、そんなこと言っていたような。
「決定的にそうだと思ったのは、ユートピアランドの一件ね。私と真山先輩は事件が終わった後に合流したから、実際の出来事は話でしか聞いてないわけだけど――それでも、目をハートマークにした高宮さんを見て、冴羽君が彼女のピンチを救ったヒーローだったってのはひしひしと伝わってきたわ。あれで惚れてないって言う方が無理があると思うくらいに」
「なるほど……」
進藤の当を得た考察に、俺は戦慄する。
よく見ているというか、これってあれだよな。進藤自身も見ているからこそ、いち早くライバルの存在を察知できた的な。
俺はこれから何を言われるのだろうか?
緊張から心臓が早鐘を打ち始めたのを感じながら、俺は身構える。
可能性として高いのは、健吾の親友である俺に協力を頼むことだが……あいにく俺は凛々乃を応援すると決めている。悪いが、進藤には協力出来ない。
というか、俺が凛々乃を応援していると告げるのもあまりいい手だとは――
「私個人の想いとしては、高宮さんの恋を応援してあげたいと思っているわ」
「へ……」
お、おい。今、進藤、何て言った?
確か、凛々乃の恋を応援したいとか――!?
「なんですとぉおおおおおおおおお!?」
嘘だろおいぃいいいいいいいいいいいいい!?
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