第5章蓮条椿の襲来⑥
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どうせバレないだろうと家に帰るという手もあったわけだが、困り果てた
ま、なるようになるだろう。
街を歩きながら、ふと楽観的な笑みを浮かべる。
まだ恋を恋だと認めていない椿が、いきなり告白――なんてことには至らないだろうし。仮にもしそこまでいったとしも、健吾も健吾で、あれだけユートピアランドで好き放題言われた後だ。あのスーパー自己評価低いマンが「好きだ」と言われてストレートにその言葉を受け取るかどうか。これは親友として、その可能性は限りなく低いの一言に尽きる。ま、
何はともあれ、椿はハンカチを返せてお礼を言えて、健吾も周囲から椿の機嫌を損ねてハンカチを奪われた――的な誤解もといてもらえるくらいは進むだろうし、俺としての務めは果たしたと思う。
俺が恋を応援している、
問題は椿より重症な凛々乃をどうすべきか、だよな。結局あの相談以降、健吾に連絡できてないみたいだし――
「ん?」
凛々乃をどうサポートするか考えようとしていた矢先、視界にふと見知った顔が映って思わず足が止まった。
「あれ、
こっちに向かって歩いてきていた進藤が、俺の視線に気付いて立ち止まった。
「あら、
「そうだな。買い物中か?」
「ええ。みればわかると思うわ」
そう言って進藤は、両手に持っていた袋をアピールするように持ち上げた。
「その様子だと結構買い込んだみたいけだけど、大丈夫か? 見た感じ、結構重そうに見えるけど」
「そうね。正直、重くないと言えば嘘になるかしら。でも後一件、前の店舗で売り切れだった本をアニメイドで買ったら帰るつもりだから」
平気とばかりに微笑する進藤。
っても、確かアニメイドって、健吾の付きそいで何回か言ったことあるけど、こっから十分くらいは歩くよな。
よし。
「進藤がよければ荷物持ってやろうか。どうせ俺、丁度暇だったし」
「えっ?」
「実はさ――」
突然の申し出で驚く進藤に、俺はそもそも何故ここにいるのかを含めて説明した。
「……そう。となると今、冴羽君と蓮条さんは二人きりというわけね」
全てを聞き終えた進藤は、何やら意味深に頷くと、冷ややかな視線を俺に向けた。
「まぁ、そう、だな」
何だか咎められているような気がして、思わず視線が泳ぐ。
ぐっ、そりゃ怒るよな。自分の好きな相手が、よりによって天敵ともよべる相手と二人きりにしたって知ったら。進藤は椿の一件で健吾がクラスの連中から風当たりが強くなった中でも、構うことなく普通に接していたし。困っている健吾を心配している感じだった。いくら誤解とはいえ、その事態を招く原因を作った椿をよくは思ってないはず。
そして、進藤にとって椿は恋敵になってしまったわけだから――これ、進藤は気付いてたりするのか? 凛々乃は自分の恋で精一杯になってて気付いていなかったけど。
そう、俺が進藤の荷物持ちを申し出たのには、このことへの罪悪感があったのも一つの理由だったりする。
俺が不甲斐ないばかりに、椿を新たならライバルに加えてしまったことを。
「そうね。播磨君がいいというのなら、その申し出、喜んでお願いしようと思うのだけれど……いいかしら?」
視線をさまよわせた進藤が、少し照れくさそうに尋ねた。
「おう、もちろん」
俺は清々しい顔で即答すると、早速進藤から荷物を受け取った。
「ありがとう、播磨君」
進藤が、優しく微笑む。
その笑顔に、俺はどう答えていいのかわからなかった。
健吾を取り巻く色恋事情で、今一番不憫なのは、恐らく進藤だろう。
健吾と出会った順番的にも、一番最初にあいつを好きになったのは彼女だろうし。それが気付けば、こんな複雑な事態になっているわけで――
凛々乃を応援してると言いつつも他の人のことも気にせずにはいられない優柔不断な俺は、責めてこれくらいはしてやりたいと思ってしまったのだ。
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