第5章 蓮条椿の襲来④
「い、いえその、だいたいこの話をすると『もったいない』『才能があるなら絶対に続けるべき』的なことを言われるので、てっきり今回もそう思ってたといいますか……」
この話を終えたとき決まってされる反応。それがなかったことに、僕は驚きを隠せなかった。
だって今まで、それ意外の反応を返してくれたのは、龍君だけだったから。
「いやだって、冴羽のその自分のやりたいことは自分で決めたいってその気持ち、あたしにもわかるからさ」
蓮条さんが優しく微笑む。
「ほら、あたしってこんな感じだけど、部活は美術部なわけじゃん。それを説明するとさ、やっぱ意外ってびっくりされるわけよ。陽キャがやる部活じゃない的な感じに、似合わないって言いたげな視線が飛んで来るわけ。それもさー、部活内からでも言われてるっぽいからやんなるし」
そう言ってからからと上げた自嘲の笑みは、どこか憂いを帯びているようにも見えて、不意に僕の胸に鈍い痛みが走った。
だって、ユートピアランドで蓮条さんが美術部だと知った時、僕も同ような感想を覚えてしまっていたから。
謝らないと。
「あ、あの、ごめんなさい」
「へ?」
「僕もその、先週お化け屋敷で蓮条さんが美術部だって知った時、意外だなと思ってしまったといいますか――」
「あーいいのいいの気にしなくて。それ言ったらあたしだってあんたのこと意外って言ってんだからさ。お相子ってことで」
気にすんなと軽く笑う蓮条さん。彼女はお相子と言ったけれど、特技を驚かれるのと、趣味を驚かれるのは、ちょと違うのじゃないかって思ってしまう。
「あたしさ、子供の頃から絵描くの好きでさ。将来はプロとまではいけなくとも、美術関係の仕事に就きたいって思ってるわけ。つまりあたしが何を言いたいかって言うと、周りがどう感じて何を言おうが、自分のやりたいこと好きなことを決めるのは自分次第ってこと。だからさ、冴羽が選んだ道を、少なくともあたしは否定しない」
勝ち気な笑みを浮かべて、蓮条さんはそう言った。
「あ、ありがとうございます」
瞬間、心の中で何かがばあっと弾けた気がした。
僕は蓮条さんを、我の強い女王様タイプだと思っていた。それも、生まれながらの勝ち組で持っている人間だからこその、僕のような自分に自信の持てない人間の葛藤や苦悩なんて知るよしもない、自信や慢心からくるものなのだと。
けど、実際はそうじゃなかったんだ。この人は、自分の進むべき道に向けてしっかりとした芯をもってるからこそ、こうも堂々としていられるんだって。
心なしか目の前の蓮条さんが眩しげに映る。ちょっと、羨ましい。
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