僕と俺のねじれトライアングル~お互いの攻略可能ヒロインが、それぞれ逆グループに所属しているせいで、中々女の子からの好意に気づけないまま、どんどんと拗れていく青春ラブコメ~
第4章 完成してしまったねじれトライアングル⑧
第4章 完成してしまったねじれトライアングル⑧
♣
至急相談したいと凛々乃に招集されたサイゼで俺を待っていたのは、そりゃもう健吾に対する熱い惚気話だった。
「――とにかく、ユートピアランドで冴羽さんから助けてもらって以来、冴羽さんと目が合うだけで顔が風みたいに熱くなり、胸が異様に高鳴ってお話しどころじゃなくるといいますか――」
「はぁ」
「ほら例えるならあれですよ。旅番組のロケでやって来たアイドルにたまたま話しかけられたファンが、色んな感情に押しつぶされて固まってしまう光景。きっと私の心境はあれと一緒です」
熱意を持って力説する凛々乃に、俺は顔を引きつらせる。
「い、いまいちピンと来ないが、健吾からアイドルみたいなオーラを感じて近づきにくくなった。ってことでいいのか?」
よもやうちの親友がアイドルとか。本人は至って真剣みたいだし、笑ったら駄目だよな。
「と言ってもそんじょそこらのアイドルとは一緒にしないでくださいね。そんなのの、十倍、いや百倍は冴羽さんの方が格好良くて素敵ですから」
「いやいやそれはちょっといくらなんでも恋は盲目すぎません?」
「すぎません。冴羽さんはそれくらい格好いいんです! 龍馬さんですら手をこまねいていた悪漢二人を、冴羽さんってば顔色一つ変えず、まるで赤子の手を捻るかのように難無く撃退してみせたんですよ。はい、もうあれぞまさしくヒーローという感じに」
「ぐっ……」
頼むから俺の名前を出すのは止めてくれ。だいぶ刺さるから。
どうにもその気持ちが顔にも出ていたらしく、気付いた凛々乃が申し訳なげな顔で頭を下げた。
「あ、すみません。別に、龍馬さんを責めたいわけではありませんから。相手は年上でしかも二人がかりでしたし。冴羽さんが同年代の男子とは比べものにならないくらい、男らしかっただけです」
和やかに頷く凛々乃。それ、何もフォローになってないからね。
「それで、相談ってのは、健吾とどう接したらいいか――ってことでいいのか?」
肩をすくめて尋ねる。このまま本題を切り出さなければ、延々と健吾への惚気話を聞かされそうな勢いだ。それじゃあ身が持たないというか、俺が間接的にどんどんと傷つかれそう。
「はい、概ねあってます。実を言うと、こんなにも誰かを好きになったのは初めての経験で、もうどうしたらいいかわからないと言いますか。今日もせっかく冴羽さんが話しかけて来たというのに、わたしってばパニックのあまりついその場から逃げ出してしまって……」
後悔極まりないとばかりに凛々乃がしゅんとうな垂れる。
凛々乃のこの症状はいわゆる「好き避け」ってやつだろう。
ただ、それが発動したタイミングが超最悪だったんだよなぁ。
頭痛を覚えて頭を抑える。
六限目の体育の時、椿や女子の耳がないのを見計らって、俺はクラスの男子から昼休み何があったのかをざっくりと聞いていた。
その内容は、もう見事にコントだった。
一人でいた椿にハンカチを返してもらうよう頼みに行った健吾が、返すのを渋られてしまい、そこへ丁度教室に戻って来た巧に香奈惠が、椿が以前恥をかかせた仕返しに、健吾からハンカチを奪っていびってると勘違いして加勢に加わったと。んで窮地に立たされた健吾は、俺の代わりに凛々乃へ縋ろうとするも、凛々乃は好き避けを発動してその場から失踪。それが静観していたクラスメイトから「あの誰にでも優しい高宮さんすら見限るほどキモイやつ」と悪いイメージを与えることになり――そこで運良く、チャイムが鳴って一応お流れになった。
要点を纏めるとこんな感じだった。
椿がハンカチを返すのを渋った理由は、まぁ十中八九週末に健吾の家に行く予定がなくなるのを惜しんだからだろう。ここは健吾に直前まで伝える気がない俺も悪いのかもしれないが、冷静に考えて、椿が自分の家に来るってなったらあいつ適当な理由作って逃げそうなんだよな。
健吾には悪いけど、いうて後二日の辛抱だ。椿がハンカチを返し終われば、誤解は解消されて良い方向に進むだろうし、今俺がどうこう手出しする必要もないだろう。
問題は凛々乃の好き避けをどうするかだが……。
「そうだな。直接会って会話が無理なら、まずはラインで会話してみるのはどうだ?」
「えっ……ですがわたし、冴羽さんの連絡先を知りませんよ」
「おいおい俺がいるだろ。教えてやっから、連絡とってみろよ。『この前助けてもらったお礼がしたくて、龍馬さんから連絡先聞きました』って感じに」
そう言って早速、凛々乃に健吾の連絡を送る。
受け取った凛々乃は好きな人の連絡先入手に喜びつつも、不安を隠せないようでいて、
「あ、ありがとうございます。ですが、わたしなんかが、冴羽さんにラインして、迷惑にならないでしょうか」
寧ろあの事件を聞くに、絶対に凛々乃に嫌われてると勘違いしてるだろうから、逆に喜ぶと思うぞ。
「大丈夫に決まってるだろ。つーか凛々乃、いつの間にそんな自己肯定低くなったんだよ。まるで健吾みたいに」
「冴羽さんみたいですか! え、えへへ。好きな人に似てるって言われるのは、何だか嬉しいですね」
「別に褒めてないから、変なところで喜ぶなよ」
「やっぱり既読スルーされないために、最初のインパクトって大事ですよね。え、エッチな画像で気を引くとかした方がいいのでしょうか……。少年漫画じゃよく、全く関連性のないヒロインのセクシーイラストでメインターゲットとなる男性読者の興味を惹いたりするんですよね?」
「どっから仕入れたんだよ、その余計な知識は。止めて、頼むから普通にして!」
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