第11話

「タッチ」


「へ?」

先生はキョトンとした顔をしていて、それがまたかわいい。


「俺、鬼なんで」

そう言うと先生は「やられたー!」って言って頭を抱えた。

そんな頭抱えるほどのこと?

大げさなリアクションをとる先生を見ていると、先生はスッと顔を上げた。


「里巳くんは蜘蛛タイプなんだね」

って、いきなり訳わからないこと言ってきて。

「自分から捕まえに行くんじゃなくて、罠を張って獲物をじっと待ってる」

「え、っと」

俺はただ疲れてたから休んでただけなんだけどな…。

「私はまんまとハメられたわけだ!悔しい」


今日の先生はいつもよりも表情ゆたかで。

割と高めのテンションに少し驚いている。

なんか、勝手に悔しがってるし。


でもそんな先生がすごくかわいい。



「タッチされた相手にはタッチし返せないんだったよね」

そう言いながら先生は立ち上がって、辺りを見渡した。

多分他の生徒を探している。

「里巳くんもずっとここにいたら捕まっちゃうわよ」

先生は俺に背を向けて俺から離れていく。


「まっ…」



待って。



そう言いそうになって慌てて口を閉じる。

引き止めてどうすんだよ…。

頭をくしゃくしゃとして、俺も立ち上がった。


その時、突然立ち眩みが襲ってきて、足元がふらついた。

そのまま倒れるとまずいと思ってすぐにしゃがんだ。


「え?里巳くん大丈夫!?」

背を向けて行ってしまった先生は、なぜか俺の様子に気づいて戻って来たみたいだ。


来なくていいのに…。


「ちょっと立ち眩みしただけですから…」

「え、でも顔色悪いよ?」

「しばらくしたら治るんで…大丈夫です」


本当は頭もガンガンに痛くて、視界が揺れて平衡感覚が分からなくなってる。

でも先生にはかっこ悪いところを見られたくなかった。


「ダメだよ、掴まって」

先生は俺を支えるようにして持ち上げた。

大丈夫だって言ってるのに。


俺は昔から体が弱かった。

小さい時は貧血で倒れることもしばしば。

高校生になってからはなかったのに、よりによってなんで今なんだよ…。


先生は俺より体が小さいくせに、俺を一生懸命支えてくれてる。

細い腕が折れてしまうんじゃないかって、こっちが心配になるくらい。


「本当に大丈夫ですから、一人で歩けます」

先生から離れようと体重を自分中心に戻そうとすると

「ダメだって言ってるでしょ」

そう言ってまた先生に寄りかかる形になってしまった。


先生って意外と頑固だな。


先生の体温が自分の体を通して伝わってくる。

あったかい。

もうろうとする意識の中で、俺はただその温もりを感じていた。

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