第5話

「夕惺くん!」

放課後、教室の入り口で俺を呼ぶ女子が立っていた。

あー、今朝告白してきた子だ。

あれ、名前なんだっけ?

返事をしてカバンを持って近づく。


「夕惺くん、一緒に帰ろう」

そうだった、付き合うことにしたんだった。


「ごめん、やっぱり今朝のなしにしてくんない?」

「え?どういう意味?」

「やっぱり付き合えない」



俺は初めて自分から振った。



「え、あ。そっか、分かった」

目の前の女子は笑顔でさらりとそう言って、すぐに立ち去ってしまった。


なんだ、結構あっけなかったな。

それもそうか。

告白も告白だったし。


「夕惺から振るなんて珍しいな」

後ろで聞いていた柾木。

「そうか?」

俺はとぼけた顔でそのまま教室を出た。


自分でもなんで振ったのか分からない。

気が付いたらもう口が動いていた。



「好きなやつでもできた?」

「そんなんじゃねーよ」

こいつの発言はいつも鋭い気がする。

俺にも分かっていないことを悟っているような。


「ま、いいんじゃね」

「何がだよ」

柾木と廊下を歩いていると、反対側の校舎に加ヶ梨先生が歩いている姿が見えた。



先生か。

これから毎日会える。



俺は学校の門のところで柾木と別れて、今日も図書館へ向かった。

いつもは適当に本を選ぶけど、今日はあの本が読みたい。

加ヶ梨先生と初めて会った時に、俺が持っていたあの本。


先生が好きって言ってたから、あの後借りて、俺も読んでみた。

外国の有名な小説で、翻訳されたものらしいけど、俺には難しすぎて全然話が分からなかった。

先生はこの本の何が好きなんだろう。

一度借りて返したその本をもう一度手に取り、椅子に座る。


集中して読み込んでいると

「里巳くんだよね?」

そう言って声をかけてきた人がいた。


顔を上げると、加ヶ梨先生で。

「あ」

間抜けな声が出てしまった。



「あの、違ってたらごめんなんだけど、ずっと前にここで1回会ってるよね?」


え。


先生は俺のこと、覚えててくれたんだ。

なぜだか胸がギューっとなるのが分かった。


でも俺は、「そうでしたっけ?」とぼけた返事をする。

あんなにも鮮明に覚えているのに。

とぼける意味なんてないのに。


「今日クラス入って、里巳くん見た時、なんか見た事あるかも?って思ってたの!」

先生は満面の笑みでそう言った。

また出た、先生のキラースマイル。


「先生、あんまり笑わない方がいいですよ」

「え?なんで?」


その笑顔は男を惹きつけてしまうから。

なんて絶対言えないけど。


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