第4話

HRが始まるチャイムがなって、クラスのみんながそわそわしながら席に座る。

俺は窓際の一番後ろの席で、頬杖をついてぼーっと外を眺めていた。



雨、止まないかな。



そんな事を思っている時だった。

ガラガラッと扉があく音が聞こえて、音のする方へ視線を向けた。



───え?



教室が一気にザワつく。

ザワついているのは分かるのに、あの時と同じ。

俺の耳には何も入ってこない。

まるで水の中にいるみたい。

そんな感じだった。



あの時から俺は、ずっと不機嫌だった。

ずっと後悔していた。

目の前にいる先生が、あの時のあの女性だって知るまで、俺の時間はずっと止まったままだった。



「吉田先生が産休に入るという事で、臨時で赴任してきました、加ヶ梨莉子です。

短い間ですが、よろしくお願いします」

先生の自己紹介が終わって、クラスのみんなは浮足立っていた。


男子たちは「超美人じゃん、やべー」とか言っていて。

女子たちも「カワイイー」「先生キレイ」と先生は持ち前の容姿で、すでにクラスみんなの心を掴んでいた。


「先生、彼氏いるんですかー?!」

クラスで目立つ女子が突拍子もなくそう投げかけて。

「おい、初日に失礼だぞ!で、彼氏いるんですか?」

男子も面白がって参戦している。


「内緒です」

先生は笑顔でそう言って。

クラスがキャー!とうるさくなった。


初めて会った時と違って、先生は髪の毛は後ろに結んでいて。

服装もこの前みたいにラフな感じではなく、かっちりとしたジャケット姿。

全然雰囲気が違うのに、笑顔だけはあの時と一緒だった。


もう一度、会えるなんて思ってもいなかった。

しかも学校で会うなんて。



HRが終わって先生が出て行った瞬間に、クラスのみんなは先生の話でもちきり。

少し複雑だった。

あの人の存在は俺だけが知っていればそれでよかったのに。


「あの先生ならずっと担任でいてほしいよな」

「もうちょっとスカート短かったらなー!」

「生足かな?!」

男子の下品な会話が耳に入ってきて、思わず眉間にしわが寄る。


「夕惺はどう思った?」

柾木に不意に聞かれて。

「別にどうとも」

俺は関心がないかのように返事をする。


「え?あのレベルで何も感じない?!さすがに理想高すぎじゃね?」

「そんなことないって」

「夕惺が好きになる女ってどんなのか興味あるわー」

柾木は俺の顔をじっと見る。


俺が好きになる女。

そんなの、俺だって分かんねーよ。




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