第3話


6月に入って雨の日が増えた。

昨日ネットニュースに、梅雨入りしたという見出しの記事が上がっていた。


雨ってだけで憂鬱。

毎年梅雨の時期は体もだるくて、気分も滅入る。

この時期が一番嫌いだ。


外に出ると案の定、土砂降りの雨。

ため息をつきながら傘を差して学校へ向かう。


電車を降りてしばらく歩いていると、

「夕惺くん、おはよう!」

雨音に交じって、後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

ふり返って顔を見ても知らない子。

制服は一緒だから同じ学校の子っぽいけど。


「えっと、誰だっけ?」

「えー酷い!昨日一緒にカラオケ行ったじゃん!」


あー、思い出したかも。

昨日、友達に無理やり連れて行かれたカラオケ店に、何人かいた女子の一人。


「夕惺くんって彼女いるの?」

「いないけど」

「じゃあ、私と付き合おう?」


挨拶みたいな軽いノリで付き合おうかとか言ってくる女。


「別にいいよ」

俺も同じノリで返事をする。


「いいの!?」

俺の返事に目の前の女は驚いていた。


「え、なに?」

「うんん。嬉しい」

そう言ってその女は俺の隣に来て、歩き始めた。


「そう言えば名前なに?」

「名前も覚えてないのに付き合ってくれるの?夕惺くんって変わってるね」

そう言って女は笑った。


「芽衣(めい)だよ」

「芽衣ね、覚えるよ」

「覚えるだって、ホント変わってる!」


こんな土砂降りの日に、告白してくるお前も相当変わってると思うけど。

そう思いながら歩幅を合わせて学校に向かう。


俺はいつもこんな感じ。

来るもの拒まず、去る者追わず。

誰が俺のことをどう思っていようが、俺にはどうでもよかった。



学校について教室に入ると、いつもより教室がザワついている気がした。

「今日、新しい先生来るんだって!」

クラスの女子の話し声が聞こえる。


「この時期に?」

「ほら、担任妊娠してたでしょ?」

「でもまだ先だったよね?」

「緊急入院だって!」

女子はどこでそんな情報を仕入れてくるのかいつも不思議だ。


「おはよ」

いつも一緒にいるクラスのヤツらに声をかければ

「なーなー聞いたか?!新しい先生、超美人なんだって!!」

って、お前らもどこで聞いたんだよ。


「へー」

新しい先生とか興味のない俺は適当に返事をする。

「夕惺、ホントそういうの興味なさそうだよな」

友達の一人、柾木(まさき)が俺を見ながらつぶやいた。


「そんなことないよ」


確かに俺は、俺を取り巻く環境に一切の興味がない。

先生が変わったところで、俺の人生は何も変わらない。



この時までは、そう思っていた。




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