第3話
*
6月に入って雨の日が増えた。
昨日ネットニュースに、梅雨入りしたという見出しの記事が上がっていた。
雨ってだけで憂鬱。
毎年梅雨の時期は体もだるくて、気分も滅入る。
この時期が一番嫌いだ。
外に出ると案の定、土砂降りの雨。
ため息をつきながら傘を差して学校へ向かう。
電車を降りてしばらく歩いていると、
「夕惺くん、おはよう!」
雨音に交じって、後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
ふり返って顔を見ても知らない子。
制服は一緒だから同じ学校の子っぽいけど。
「えっと、誰だっけ?」
「えー酷い!昨日一緒にカラオケ行ったじゃん!」
あー、思い出したかも。
昨日、友達に無理やり連れて行かれたカラオケ店に、何人かいた女子の一人。
「夕惺くんって彼女いるの?」
「いないけど」
「じゃあ、私と付き合おう?」
挨拶みたいな軽いノリで付き合おうかとか言ってくる女。
「別にいいよ」
俺も同じノリで返事をする。
「いいの!?」
俺の返事に目の前の女は驚いていた。
「え、なに?」
「うんん。嬉しい」
そう言ってその女は俺の隣に来て、歩き始めた。
「そう言えば名前なに?」
「名前も覚えてないのに付き合ってくれるの?夕惺くんって変わってるね」
そう言って女は笑った。
「芽衣(めい)だよ」
「芽衣ね、覚えるよ」
「覚えるだって、ホント変わってる!」
こんな土砂降りの日に、告白してくるお前も相当変わってると思うけど。
そう思いながら歩幅を合わせて学校に向かう。
俺はいつもこんな感じ。
来るもの拒まず、去る者追わず。
誰が俺のことをどう思っていようが、俺にはどうでもよかった。
学校について教室に入ると、いつもより教室がザワついている気がした。
「今日、新しい先生来るんだって!」
クラスの女子の話し声が聞こえる。
「この時期に?」
「ほら、担任妊娠してたでしょ?」
「でもまだ先だったよね?」
「緊急入院だって!」
女子はどこでそんな情報を仕入れてくるのかいつも不思議だ。
「おはよ」
いつも一緒にいるクラスのヤツらに声をかければ
「なーなー聞いたか?!新しい先生、超美人なんだって!!」
って、お前らもどこで聞いたんだよ。
「へー」
新しい先生とか興味のない俺は適当に返事をする。
「夕惺、ホントそういうの興味なさそうだよな」
友達の一人、柾木(まさき)が俺を見ながらつぶやいた。
「そんなことないよ」
確かに俺は、俺を取り巻く環境に一切の興味がない。
先生が変わったところで、俺の人生は何も変わらない。
この時までは、そう思っていた。
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