9.28.三狐の出生
三狐がぴょいと背中から降りて、俺の前に座る。
セレナとガルザもこちらの話に耳を傾けるようだ。
ベリルたちは悪魔について勉強中。
で……盗られたってどういうことなんだ?
実体がないっていうのもよく分からん。
こいつらには体温もあるし、触ることもできるし……。
『私たちは元々、普通の狐でした。ですが特殊な魔法を使うということで目を付けられ、悪魔に捕まったんです。私は内臓を焼いて死にました』
天が忌々しそうにしながらそう言った。
『悪魔に毎日体をいじくられ、逃げることもできず、ただ殺されるのを待つしかありませんでした。私は圧殺して死にました』
界が身震いしながらそう言った。
『魔法に関しては強力な物を持っていますが、肉体はひ弱で到底太刀打ちできません……。私は深淵魔法で死にました』
冥が悔しそうにそう言った。
三匹は、実験体だったのだ。
悪魔の話をするのであれば、まずこれを知ってもらわなければならない。
三匹にとって地獄の日々を、思い出したくはなかったのだろう。
なんか申し訳なかったな……。
さっきまでの俺をぶん殴りたい。
『私たちは死んだあと、魂だけになりました。ですがその魂を、冥の闇魔法でこの世界に存在させ続けてくれたのです』
『それを私は空間魔法で外を覆いました。触れる感触があるのはこのおかげなのです』
『体温は天が再現してくれています。あとは私の闇魔法で毛の質感などを忠実に……』
まだ死にたくない。
こんな死に方は望んでいないと、三匹は死んでも生にしがみついた。
と、思っていた。
だが実際は違った。
幾日も実験に体をいじくられる日々。
なぜこんなことになったのかは、既に覚えていなかった。
しかし、三匹は自分たちをこんな目にあわせた悪魔を酷く恨み、憎んだ。
『『『私たちは三狐、ではありません』』』
『では、なんだ?』
『『『
酷く鋭い怨念から生まれた狐。
その実体は霊体であり、こうして一日姿を現すことができているのは奇跡だ。
三匹の個体名は、生きている時の名残。
狭間狐、日天狐、闇悪狐。
生前はこの名前で呼ばれていたことは覚えていた。
『『『そして私たちは、その悪魔を憑り殺しました。そして、オール様に会うまでは悪魔を殺し続けていたんです』』』
『それで良かったのか?』
『『『まぁ気は晴れましたね』』』
そんなもんなのか。
ていうか、これじゃ昔の俺たちみたいだな。
何の躊躇いもなく人間を殺した時を思い出す。
で、俺があの竜巻を起こした直前に憑りついていたのが悪魔で、それが死んだから俺の方に憑りついたんだよな。
『……そういえば……どうして竜に俺を会わせたんだ? 何か目的があったのか?』
『『『いや、あれは本当に縄張り争いで本拠地が壊される可能性があったので。これから憑りつく宿主にそんな簡単に死んでもらうわけにはいきませんし』』』
『優しいのか狡猾なのかどっちなんだ……』
まぁこれは優しいということにしておこうか……。
しっかし重い空気になったな。
これどうしよ。
俺が聞いちゃったからこう話すしかなかったんだろうけど。
でもあれだな。
話を聞いている限り、悪魔についてはあんまり知らなさそう……。
憑り殺すっていうのは多分魔力枯渇にして殺すんだろうし、それだけを目的として生きてきたなら、興味なんてないわな。
『……ん? もしかして霊体で憑りついてたら姿見えない?』
『『『はい。オール様には恨みも何もなかったので、姿を作って魔力の供給源となっていただこうと思いまして』』』
『ああ、そう……』
なんかいつもの調子に戻ってきたな……。
ぺしっ。
セレナが天の頭に手を置いてみる。
何回かぺしぺしとやってみるが、やはり実体があり体温があったらしい。
『これ魔法でできるの!? すごい!』
『『『他にもいろいろできますよ。まぁ霊体になってできることが増えたんですけどね』』』
セレナが完全に重い空気を払拭してくれた。
今は楽しそうにお喋りをしているようだ。
こいつには助けられてばかりかもしれないな。
……しかし、三狐が霊体となって憑りつくことができるのであれば……。
『あの不死身の悪魔、殺せるかもな……』
『できるのですか?』
『悪魔特攻の三狐がいるからな。どんなに死なないって言っても、不死の源を絶ってしまえば勝てるだろう』
『魔力ですか』
『そうだ』
不死身っていうのはそう簡単にできるもんじゃないだろう。
何かしらの制約を背負っている可能性がある。
一番分かりやすいのは魔力の使用によって不死身になっている、って感じかな?
どっちかっていうと高速回復に入ると思うんだよなぁ……。
いやあれは修復か?
再現か?
どっちにせよ魔力を使って回復しているはずだ。
それを無くしてしまえば、復活はできないだろう。
『三狐』
『『『三狐じゃないですよ?』』』
『いいんだよ別に。俺の中ではお前らは三狐でただの狐なんだから……。……思い出したくない話を聞いて悪かったな』
『『『ブワッ!!』』』
『ぬおおおおおお!?』
『『『おーるざまああああ!!』』』
『泣くようなことがあるか!?』
こいつらの情緒どうなってんだよマジで!!
あーもう、仕方ないなぁ……。
『はいはい……』
『『『ふええええええ』』』
『三狐泣き虫ー』
『セレナ……やめなさい』
これじゃ話も聞けそうにないなぁ。
ま、悪魔についてはもうこいつらから聞こうとは思わないし、レンの知識を頼ることにしよう。
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