9.23.報告と協力


 本拠地が襲われた。

 その事を俺たちは帰ってすぐに仲間たちに知らせた。


 子供たちが全員こっちに来ていたのは不幸中の幸いだ。

 あの毒、多分子供たちだとすぐに毒が回っていただろうからな……。

 仲間たちは一旦ライドル領に滞在させてもらうことにした。

 拠点を放棄したわけだからな。

 食料もあるし多分しばらくはこっちでも何とかなるはずだ。


 とりあえずあいつらの回復を待って、何が起こったのかを聞かないと。

 他にもいろいろやっておかないとな……。

 人間たちに迷惑かけることになるとは……。


 ヴァロッドはまだ帰って来てないから、ベリルに話を通しておくか。

 あいつは今どこに居るんだ?


『……普通に遊んでるのか……』


 子供たちには詳しい説明を避けている。

 しばらくここに滞在するということになってはしゃぎまわっていたな。

 それはそれでいいのだが……これから少し厄介になりそうだ。

 子供を守りながら戦うのは難しいかもだしな。


 よし、何はともあれベリルのところに行って話を通しておこう。

 ライドル領にいる奴らで何か対策を取ってくれるかもしれないからな。


 ダークエルフはこのライドル領にとっても危険な存在だ。

 俺たちが狙われていると知れば、助けてくれるだろう。


 匂いを辿ってベリルの所に行ってみると、彼はセレナと一緒に寝ていた。

 俺が来たことに気付いて上体を起こす。


「どうしました?」

『セレナ、通訳頼むぞ』

『あいっ!』


 先ほど起こったことと、本拠地を放棄したということをベリルに伝えた。

 ベリルは真剣な表情でその話を聞いて、顎に手を置いて考えこみ始める。


「……そんなことが……」

『しばらく仲間がやっかいになる。この事を人間たちに伝えてくれるか?』

「分かりました。でも今はお父様も居ませんし、ディーナさんも居ません……。どうしましょう……」

『ん? ああー、まぁハバルかお前が指揮を執ればいいんじゃないか?』

「ええ……」


 あとどれくらいで帰ってくるかにもよるだろうけどな。

 まぁまだ俺たちがこっちに拠点を移したっていうことはバレてないと思うし、暫くは大丈夫だと思う。

 ていうかベリルも人間たちを引っ張っていくだけの力はあると思うんだけどね。

 子供だからって遠慮しなくていいんだよ。


 ……まぁそれは置いておいて、どうしてダークエルフが俺たちの拠点を知っていたのかが分からんな。

 ガンマが戻って来てくれたら何かわかるかもしれないんだが……。

 あとはルースが回復するのを待つか、だな。


『兄さんただいまぁー』

『ぬおおおおお!!?』

『わああああ!!?』

「どわあああ!!?」

『え?』


 ガンマが俺とベリルの間に降ってきた。

 衝撃でベリルとセレナは転がっていってしまい、俺には思いっきり土埃がっ!!


『てめぇ飛んでくるんじゃねぇよ!! 歩いてこい馬鹿!!』

『だってこっちの方が速いじゃねぇか……』

『速度の問題じゃないわ! あぶねえっつってんの!』


 お前はいいかもしれないけどなぁ!

 俺や小さな子供たち、ましてや人間にその衝撃は一種の攻撃なんだよ!!

 おいどうすんだこの毛の中に絡まった土埃!!

 ふざっけんな!!


 とりあえず体を振るって簡易的に土埃を払う。

 あとで水浴びしてこよ……。


『で、どうだったんだ?』

『悪魔の臭いが残ってた』

『……悪魔? って、あの悪魔か?』

『ああ。死なない奴』


 悪魔が、あの場所に?

 なんでだ?


『あと一ヵ所だけ、人間が一匹は入れそうな穴があった。結構深かったけど』

『……』

『これで何か分かることないか?』

『……え、いや……でもそんなことってあるのか……?』


 こ、この世界に死者蘇生の方法があるとして、それを悪魔が知っていたとすると……。

 ダークエルフが本拠地を知っていた説明はつく。

 悪魔は俺たちのいた本拠地を知っていたし、それを生かして帰してしまっている。

 生き返らせたダークエルフに悪魔がそのことを伝えていたらではあるが……。


 いやでもそんなことある?

 死者蘇生とかできるの?

 都合よく解釈しているにも程があるけど……可能性はあるよね……。


『その辺どうなんですか三狐』

『『『死者を綺麗に蘇らせる方法はありません。ですがアンデッドとして復活させることはできます』』』

『可能っちゃ可能なのかぁ……。俺が土狼で埋めたダークエルフを復活させた可能性は?』

『ありますね』


 ぴょいっと冥が俺の背中から飛び降りる。


『ガンマ様が向かわれた場所は確かにオール様が土狼でダークエルフを埋めた場所です。そこで一つの穴があったのであれば、ダークエルフがアンデッドとして復活した可能性は高いです。ですが……ダークエルフはフェンリル様を崇拝しています。普通のダークエルフであれば、私たちの本拠地を襲うなんてことはしないでしょう』

『……てなると……』

『悪魔は復活させた相手を選んでいます。フェンリル様に、ひいてはオール様に恨みを持つダークエルフを選んだのです』

『……フスロワか』


 アンデッド化して意識が残っているのかは分からないが……。

 あいつを殺す直前、とんでもないことを言っていたことは覚えている。

 人格って言いやがったからな。


 まぁ……あいつの言っていることは正しい。

 そもそも俺は何で狼の体に意識が入っているんだろうな。

 よー分からんわぁ~。


『……やることが見えてきた』

『『『お手伝いいたします』』』

『まずは情報収集だな。ベリル、そっちは頼んだぞ』

「は、はい! 知らせるだけ知らせてきます!」


 折角ここまで人間たちに歩み寄れたんだ。

 そう簡単には……壊させはしないぞ。

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