8.48.テクシオ王国


 俺とベンツが近づいたことによって、王と研究者っぽい三人は少しだけ身を引いたようだが、それも一瞬ですぐに目線を合わせてきた。

 なかなか肝が据わっているようだ。


『ヴァロッド、どうなっている』

「お前……危ないかもしれないぞ」

『それは君も同じだ。なに、そう簡単に負けはしないよ』


 まぁベンツが言っていることは事実だとして……。

 今のところ、こいつらに敵意はなさそうだ。

 話くらい聞いてみても大丈夫だろう。


「まさか……本当にエンリルを従えているとは……」

「従えたのではありません。協力をしてくれているだけです。それよりもファイアス国王。もう少し詳しいお話をお聞かせください。何故サニア王国を滅ぼすということになるのですか? 貴方たちの狙いはこのエンリルたちでは?」

「誰も、誰もそんなことは言っておらん……。確かにアストロア王国の使者が兵を出せという指示書を持ってきた。だが我はそれに反対だったのだ」


 ……この二年間で、こいつらも変わったとみていいのだろうか。

 いや、もう少し話を聞いてみよう。


「その理由を、聞いてもよろしいですか?」

「ああ……。だが、まずは謝らせてくれ。そこに居るエンリル二匹は……エンリル討伐隊の生き残りなのだろう?」

「っ!」

『……』

「本当に、本当に……申し訳ないことをした……。謝っても、いくら償っても、償いきることができない罪を、我らは犯してしまったのだ……本当に、すまない……」


 テクシオ王国国王、ファイアス・コーネグリフは深々と頭を下げた。

 他兵士たちも片膝をついたまま深く頭を下げ、謝罪の意を表してくれる。


 王族がこうして頭を下げるなんてことは、話でもあまり聞いたことがないな。

 ヴァロッドの驚き方を見ても、これが異常な光景だということが分かる。

 その後、ゆっくりと頭を上げたファイアスは、ヴァロッドの問いにようやく答えた。


「エンリルは、知らぬ間に我らと共存していた。彼らを狩れば何が起こるか、我々は身をもって知っている。だからこそ、こんな蛮行は止めるべきだと、この戦いを止めるべく兵を動かしたのだ」

「……つまり……私たちを助けようと……?」

「その解釈で合っている。だが我らはお主の領地を救って何かを得ようとしているわけではない。我らの領地がああなってしまったのは、側近を止められなかった我の落ち度だ。この期に及んで我らの領地の復興を手助けしてくれ、などというつもりはない」


 力のこもった眼で、ファイアスはヴァロッドを見る。

 この様子からするに、こいつは確かに自分の国が得をするような立ち回りはしないだろうということが伺えた。


「それを踏まえたうえで、ヴァロッドよ。我が国と同盟を結んでほしい。一方的にお主の領地を手助けしよう。兵が必要であれば手配しよう。必要な物があれば運び込ませよう。我らテクシオ王国が犯した罪を、エンリルの居るお主の領地を手伝うことにより、一つの償いとさせてくれ……! 頼む……!」

「……ファイアス国王……貴方は……」


 ヴァロッドは、俺の方を見る。

 確かにこれは俺が判断するのが妥当だろう。

 今の現状を見るに、ライドル領が協力者を必要としているのは明白だ。

 これを断れば次は何時同盟国が現れるか分からない。

 戦争が終結する予定なので、暫くはやっていけるだろうが……今後のことを考えると後ろ盾は欲しい。


 この国王の様子を見て分かることは多くある。

 彼は本当に後悔しているのだ。

 俺たちの棲み処を襲ったことを、この二年間悔いていたのだろう。


 側近を止められなかったという発言から、この国王が主体となって討伐隊を結成したのではないということは分かる。

 振り返っても帰ってこないものは帰ってこないし、失われたものが戻ってくるわけでもない。


 ……失ったものは、多いよな。

 形は違うけど、こいつらも俺たちと同じように苦しんだ時期があったはずだ。

 国王の覚悟はもう理解している。

 自らがここに来ているのが、その何よりの証拠だろう。

 ……じゃあ、俺が言うことは一つだな。


『ベンツ、通訳してくれ』

『うん』

『俺たちに協力したいのであれば、子供たちが平和に暮らせる未来を作る為にヴァロッドを手伝え』

『……だってさ、ヴァロッド』

「フェンリル…………」


 ヴァロッドはすぐに、俺の言葉をファイアスに伝えた。

 彼はその言葉をしっかりと受け止め、再び頭を深く下げる。


「有難う……! 我らテクシオ王国は、ライドル領に全面的に協力する」

「ファイアス国王。私はフェンリル、エンリルたちとの共存を望んでおります。その手伝いを……していただけますか?」

「勿論だ……! 勿論だ! 有難う……フェンリル、エンリル……」


 ファイアスはついに涙をこぼし、小さく感謝を述べ続けていた。


 こんな国王も居るんだな。

 サニア王国みたいな奴ばっかだと思ってた。


 よし、あとはこいつらに任せておけば問題ないだろう。

 敵も居なくなったし、あとは戦争に勝ったということを大々的に触れ回ってもらえればいいな。

 俺その辺よく分かんないから完全にぶん投げるけどね。


『じゃ、今度こそ帰るか』

『まとまったの?』

『ああ。俺らの仕事はここまでだ。あとはゆっくり成り行きを見ることにしよう』


 うん、帰ろう。

 美味しいご飯食べようね。

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