8.34.Side-ガンマ-最高の奇襲
遠くの方で人間の団体がいることを確認した。
起伏があまり激しくない平原なので、奇襲は難しいかもしれない。
後方で走ってきている一角狼を目視で確認したガンマは、一度止まってヴェイルガに声をかける。
『ヴェイルガ。レーダーを使って状況を教えろ』
『ぜぇ……ぜぇ……。が、ガンマ殿速すぎませんか……。少し休憩させてください……』
『何? ……まぁしゃあねぇか』
よく見てみれば、一角狼たちが全員息を切らしている。
そんなに速く走ったつもりはなかったのだが、こいつらにとっては速すぎたようだ。
『ドロは大丈夫か?』
『僕は大丈夫……』
むぅ、他の奴らのペースに合わせるってのは少し面倒だな。
これだったら今度はヴェイルガを先頭にして走らせて、俺が後ろに付いた方がいいか。
幸い敵もまだ遠くにいるし、こちらに気付いた気配はない。
ただこの立地は狩りに向かないな。
今俺たちは少し小高い丘の上にいる。
向こうの奴らがこちらに気付いていたとしても、頭しか見えないので狙われる心配はない。
跳び出せば発見されてしまうな。
『ヴェイルガ、まだか?』
『無茶言わないでくださいよ……。まだ魔力が回復してません……』
『貧弱な』
『ガンマ殿は身体能力強化の魔法を使っているから、平気なんだと思いますけど……』
ああ、そうか。
それじゃあこいつらがこうなってしまうのも無理はないな。
『が、ガンマ兄ちゃん。これから……どうするの?』
『何とか奇襲を仕掛けたいんだが……獲物の位置がまだ不明瞭で数が多すぎる。だからヴェイルガのレーダーである程度の位置を絞り込みたくてな』
『僕……似たようなことはできるかも……』
『お?』
『オール兄ちゃんの様に……視界を共有するってのはできないけど、沼人形で仲間を増やせる……。僕が敵を移動させてみるから、ガンマ兄ちゃんが、それを目視で確認してくれれば……』
『やってみるか』
こういう案はできる限り使っていこう。
折角ドロが考えてくれたんだからな。
だが……ここから人間がいる場所まで結構な距離がある。
あそこに魔法を遠隔で向かわせることはできるのか?
『できるよ。あの距離だったら大丈夫』
『ほぉ。じゃあ任せるぜ』
『うん』
『複合魔法、沼人形……』
できるのであれば、やって見せてもらおう。
ドロが地面に魔力を流し込む。
作り出した土の狼は大きなものではないが、人の膝くらいまでの背がある。
べちゃべちゃしているその体は物理に耐性があるらしい。
それをどんどん作り出していき、できるだけ低姿勢で人間の方へと走らせていく。
合計百匹はいるだろうか?
それからもドロはまだ人形を作り出す。
『無尽蔵なのか?』
『大きなのは……魔力をいっぱい使うから……ここまでの数は作れないけど、小さいのだったら僕はいくらでも作れるよ』
『すげぇな』
そういえば、こいつレイとウェイスから離れて魔法の練習してたな。
何をしているのかは分からなかったが、多分この魔法で作り出せる人形の数を増やしていったんだろう。
一匹で良くここまでできるもんだ。
『へへ……。そ、そろそろ人間たちに襲い掛かるよ。ガンマ兄ちゃん、見ててくれる?』
『よし、任せろ』
目を凝らして目視で人間の状況を確認する。
ドロの作った人形が一斉に襲い掛かった。
どうやらこの付近の草は少し背が高いようで、いい感じで人形の姿を隠してくれたようだ。
音が近づいてくるまでに人間たちは存在に気付かなかったらしい。
一斉に騒ぎ出したことを音で確認する。
長蛇の列を作っていた人間たちが広がっていき、即座に戦闘態勢に入った。
だが奇襲によってドロの人形だけで多くの人間に手傷を負わせることができたようだ。
ここからでは敵の詳しい数は分からないが、昔兄さんと一緒に魔物の群れと戦った時と同じ数がいるような気がする。
まぁ、どうということもないが。
『……おお、結構動いたな。今集まってる奴らで全部だ』
『なんでその距離で見えるのですか……?』
『見えないのか?』
『見えないですね』
『僕も』
普通は見えないのか?
まぁ役に立ってるとは思うから別にいいか。
敵は密集して炎魔法を使っているらしい。
周囲の草を燃やして敵を視認しようとしているのだろう。
『ああ……ぼ、僕の沼人形は炎魔法に弱いんだ……。固まっちゃう……』
『水と土魔法の複合魔法だったな。作り続けられるのであればそのままやってくれ。おいお前ら、もういいだろうな』
『もう大丈夫です!』
『だったら機動力を駆使して横に回り込め。狩りの時間だ。俺が隙を作る』
ガンマと一角狼が、体に赤と黄色の稲妻を走らせる。
一角狼が瞬時に移動して人間の横を取るように動き出す。
ガンマはそこから少し離れて跳躍する。
地面が抉れて大きな音を立てた。
着地位置は人間たちの少し手前。
一角狼は少し遅れてくるはずだということを見越し、腕に力を込めていく。
赤い稲妻が腕の周りに集中し始めた。
空高く飛び上がれば、あとは重力に従って地面へと落下していくだけ。
その勢いを使って思いっきり地面を殴る。
人間たちは一匹の狼が空を飛んでいるところを見て、指示を出しているようだ。
だがドロの魔法によって混乱している為、情報伝達が思うように進まない。
その間にも体は地面へと向かって落下していき、ついにガンマは地面を殴った。
『せーのっ』
ドゴォン!!!!
半径十メートルの地面が凹んだ。
ドンッ!!!!
更に十メートルの範囲が凹み、力を寄せた前方の地面が隆起し始める。
『炎魔法、熱波』
地面を殴った衝撃で強烈な突風が人間たちに向かって吹きすさぶ。
それは鎧を熱し、皮膚を焦がして人間が発火した。
一瞬で兵士の六割が炎に包まれると、その後は地面が崩れ始めて地面が彼らを襲い始める。
平原だということもあり地面は柔らかく、巨大なクレーターと渓谷が形成されてしまった。
残された四割の人間もそれによって被害に遭ったが、まだ生き残っている兵士は多い。
バヂヂヂヂヂッ。
稲妻が何本も走り抜ける。
機動力とその身体能力を活かした一角狼の部隊が、崩れた地面を疾走して電撃を生き残った人間にぶつけていく。
雷狼がいるので兵力は二倍になり、更に繋がっている糸をできる限り伸ばしているため、範囲攻撃のような形で敵を殲滅していった。
まともに動けない彼らはすぐに餌食となり、ただ肉体を焦がして沈黙する。
惨状を遠くから見ていたドロは攻撃を止め、沼人形を地面に帰らせる。
大きく息を吸って失った魔力を作り出し、ガンマたちと合流するためにトテトテと歩いていったのだった。
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