8.35.Side-ガンマ-戦利品


『弱いなぁ』

『ぼ、僕の沼人形にしか……攻撃してこなかったねぇ……』

『……ガンマ殿の熱波が強すぎただけでは?』


 溶けた鎧がその辺に転がっている。

 肉片がこびり付いており、酷い匂いが周囲に漂っていた。


 地面は大きく変形して破壊され、所々が赤く染まっている。

 この惨状を見た者はここで何があったのかを把握することすらできないだろう。

 辛うじて予想することができたとしても、それは隕石がここにだけ落ちて来たのではないだろうかという憶測しか生まれないはずだ。

 人が成せる業ではないのだから。


『さ、兄さんに頼まれたたことをこなすとするか』

『え? 何か言ってたの?』

『ああ。物資を持って帰ってこいって言ってたな。あいつらが準備していたやつと同じ物を持って帰ればいいはずだが……』

『……無事な物、ありますかねぇ』

『……』


 やっちまった。

 何処を見ても無事らしき物資がない。

 ライドル領の人間が荷馬車とかいうやつに食料やらなんやらを詰めていたのを兄さんに教えてもらったから、物自体は見れば分かるが……。

 俺のあの一撃でほとんど地面に飲み込まれちまったのか。


 戦いになると、どうもこういったことに配慮できなくていけないな。

 だけどそんな手加減できねぇしなぁ……。

 とりあえず探すだけ探してみるとするか。


 だがその前に。


『ヴェイルガ。残党狩りしとけ』

『適任ですね。了解です』


 ヴェイルガがすぐにレーダーを使用して、周囲の状況を確かめる。

 近距離であれば魔力消費はあまりないので、連発して使用しているようだ。

 三回目あたりの索敵で生き残りを発見したのか、すぐに走り出して残党処理をし始める。


 残りの一角狼たちもそれに続き、念には念をと周囲の警戒をしながらヴェイルガについていく。

 残党狩りは任せても大丈夫だろう。


 じゃ、俺たちは物資なる物を探すとしますかね。

 ドロにも手伝ってもらわねぇとな。


『ドロ、物資を探すぞ。馬車とかいうやつに入ってるらしい』

『た、食べ物入ってる?』

『ああ』

『だったら……いい匂いを辿ればいいね』

『……この血の匂いが充満している場所でか?』

『あっ』


 案としてはいいものなのだが、今の現状を考えるとそれは難しいな。

 血の匂いで他の匂いがほとんど分からん。

 兄さんだったら鼻がいいからそういうのも区別できるんだろうけど、俺たちじゃ無理だな。


 他の方法を考えたいが……俺の適性魔法は身体能力強化の魔法と炎魔法。

 炎魔法に至っては、ほとんど使ったことがないし、そもそもこういう何かを探すっていうことができないな。

 ほとんどの魔法がそうだろうけど。


『……じゃ、じゃあ……沼魔法使ってみるね……』

『お前の得意な複合魔法か』

『うん。沼の中に入ってるものは……把握できるんだ……』

『へぇ。ってことはこの辺一帯を沼に沈めれば……』

『分かるよ。沼は自分で操れるし、目的の物があれば……引っ張り出せる……』


 優秀な魔法だな。

 多分兄さんはここまで考えていたわけじゃなかっただろうけど、いい選択だ。

 兄さんのそういうところ凄いよな。

 今回はまぐれだろうけど。


『じゃあ任せていいか? 運ぶのは俺がやるからよ』

『うん……。あの大きい木の箱だよね?』

『ああ、そのはずだ』

『分かった』


 ドロがとんと地面に手を置く。

 そこから魔力を送り込み、辺り一帯を沼地に変えた。

 隆起していた土や岩がどんどん沈んでいく中で、馬車と思われるものだけが外に放り投げだされる。

 沼の中から引っ張り出しているので随分と汚れていた。


 ドロは水魔法に適性があるから、この汚れも後で落としてもらうことはできそうだな。

 汚いままでは俺も運びたくないし。

 にしてもすごいな。

 魔法って色んな使い道がある……。


 ああ、炎魔法もそうか。

 敵を攻撃したり、肉をゆっくり焼いたりとかいろいろできるもんな。

 冬だったら暖も取れるし。

 洞窟の中ではやっちゃいけないって兄さんが言ってたけど、なんでだろうか。

 その辺は分からん。


 そう考えている間にも、ドロは馬車を沼の中から取り出していく。

 次第にそれもなくなってしまったのか、一つ息を吐いて座った。


『これで、終わりだよー……。ガンマ兄ちゃん、炎魔法でこれ固めてくれないかな?』

『いいぞ。だがヴェイルガたちが戻って来てからだな』

『うん、分かった』


 広範囲の炎魔法を使ってあいつらが怪我なんてしたら、兄さんになんて言われるか分かったもんじゃないからな……。

 俺が炎魔法を使う時は、しっかり周囲の状況を確認してからじゃないと。


『あ』

『ん?』

『これ、どうやって運ぼうか』

『んー……、茶色いツタみたいなの、なかったっけ……? それか僕の沼人形に運ばせてもいいけど……』

『優秀だなお前の技能マジで』

『え、えへへ……』


 結局全部任せてしまうことになるな……。

 まぁドロが嬉しそうだしいいか。

 あとはあいつらが帰ってきたら、この辺一帯を炎で焼いて帰るだけだな。

 さぁてと……この物資運ぶのは骨が折れそうだ……。

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