8.6.二度目の血印魔法


 ディーナたちが俺の所に来たと思ったら、ベリルとセレナのことについて聞きたいと言い出した。

 なので連れてきて通訳をしてもらっている訳なのだが……。

 何がどうしてそうなった。


「今私たちには情報が足りない。だからベリルとセレナのように会話をできるようになって、情報収集がしたいのだ。場所はアストロア王国。兵士の状況を確認して通達する役割のエンリルがいれば、その情報報告速度は格段に上がるの」

『まぁ確かに、俺たちだけではできないし、人間だけだと時間がかかるか』


 俺以外のエンリルは人間の言葉を理解できない。

 それは周知の事実であり、人間の情報を確保してくるのは難しいだろう。

 ただの兵士の動きを報告するということであれば難しくはないかもしれないが、やはり人間の目線でそういった判断をする方がいいはずだ。


 人間だけであれば難しくはないが、情報を渡すのに時間がかかりすぎる。

 それでは間に合わないこともあるかもしれないということらしい。


 俺としては全然いい案だと思う。

 問題はそれに協力してくれるエンリルがいるかどうか、というところなのだが……。

 速度を重視しているのであれば、移動速度の速いエンリルがいいはずだ。

 となれば……一角狼か。


 ああ、それとベリルとセレナの関係性だったな。

 俺は四人に血印魔法について教えてあげた。

 契約を結ぶことにより、会話が可能になるというものだ。

 だがしかし、血印魔法は非常に強力な契約魔法である。

 契約後は何かない限り契約を解除することは難しいということだけは伝えておく。

 それを承知してするということであれば、俺は止めない。


「だってよハバル」

「他人事だと思って……。まぁ、こういう経験も悪くない。俺はいいぞ」

『では……ガルザ!!』


 俺は一角狼のガルザを呼んだ。

 呼ばれてすぐにこちらに駆け寄ってきて、その場に座る。


『お呼びでしょうか、オール様』

『単刀直入に話すが、お前は人間と血印魔法を結べるか?』

『血印魔法……というと、セレナの?』

『そうだ』


 一方的に結ばせるというのは、俺はしたくないからな。

 こいつに話を聞いて、嫌ということであれば他を当たることにする。


 ガルザは一角狼の副リーダー的な存在となっている。

 他の奴でもよかったのだが、こいつは今独り身だ。

 家族を持っている一角狼より、こういう奴の方が適任だろう。


『構いませんよ』

『お、おお……意外と早かったな』

『俺は人間をそこまで嫌ってはおりませんし、何なら良いかとも思います。通訳が増えますからね』

『あー、とりあえずこれも話しておくが……』


 なんだか軽く捉えているようなので、血印魔法についてのことをしっかりと伝えておく。

 最悪解除できないということもありえるのだ。

 だがそれでもガルザは問題ないと首を縦に振った。


『ヴェイルガの奴を殺さないでいてくれたお礼です。それに初めてのしっかりとしたオール様の頼みですから』

『……俺、そんなに頼ってなかった?』

『そうですね。皆オール様に頼られるのは嬉しいですから、多くの仲間たちが待っていたりするんですよ?』

『まじかぁ……』


 それは知らなかったなぁ?

 確かに俺、ガンマやベンツ……あとシャロとかレイ、ヴェイルガにはいろんなことを頼んだ気がするけど、一角狼たちとかスルースナーの元仲間たちにはあまり頼ってなかったかも……。

 き、気を付けよう。うん。


『それに、オール様の言う子供たちの未来を、俺が手伝えるなんていいじゃないですか』

『……その素直さをガンマにやってくれ……』


 ガルザ、めっちゃいい奴じゃん……。

 これからもっといろんなこと頼むね?


 兎にも角にも、これで話はまとまった。

 あとは血印魔法を結ぶだけである。

 やり方は、人間の血をエンリルが摂取するということだ。

 契約したいということを念頭に置いてしないと発動はしないらしいので、そのことをしっかりと伝えておく。


 準備ができたハバルは、自分の腕に傷をつけて血を垂らす。

 それをガルザが一舐めすれば、契約は完了である。


 契約が終わり、体に異状がないことを確認したハバルとガルザは、試しに声をかけてみる。


「き、聞こえるか?」

『おお、不思議なものだ』

「おお……! てかお前……そんな声してたのか……」

『俺もピーピーという鳴き声じゃなくなったぞ』

「そんな感じで聞こえてたのか……?」


 お互いの言葉が理解できるようになったようだ。

 これで契約は完了。


 だがハバルとガルザは、互いに血印魔法を理解した上で契約を行った。

 今回は一方的な契約ではなく、しっかりと同意した上での契約となった為、その縛りは硬く強固なものになる。

 この場にいる誰もが知らないことではあるが、この契約は死ぬまで続く。

 それが分かるのは、随分と後になる。


 そしてこれが、二例目の従魔契約となったのだった。

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