8.7.Side-ハバル-会話


 会話できるようになったのはいいのだが、これからどうするか全く考えていなかった。

 すぐにでもアストロア王国の情報収集をしなければならないのだろうが、このまますぐに連れて行ってもいいものかと考える。

 折角会話できるようになったのだから、何かを話しして少しでもこいつのことを知っておきたい。


「名前は?」

『ん? ああ、そういえば教えていなかったな。俺はガルザだ』

「ハバルだ。よろしくな。というか名前あったんだな」

『あるさ。だが俺たちはこういう契約を交わさない限りは教えない。我らがリーダーがそうだからな』

「なるほど」


 会話をしてみて分かったが、本当に人間並みの知能があるようだ。

 半信半疑だったが、ここまでしっかりと意思疎通が取れる魔物がいるのに素直に驚いた。

 こんなふうに魔物と会話ができるのであれば、無駄な争いなどは本当に生まれそうにはない。


 まぁ無理な話なんだろうが。

 そう思いながら、魔物と会話ができていることに素直に感動する。

 中々できない経験だ。


「ガウガゥ」

『分かりました。では行ってまいります』

「……お?」

『乗れハバル』


 ガルザは身を低くし、背中に乗るように促した。

 言われるがままに背に乗り、その感触を確かめる。

 随分と固い毛で、指先にはパチパチという感覚が走った。


 この感覚は雷魔法だ。

 常に体に纏わせているのだろうかと思ったが、そうであれば乗った瞬間にダメージが入るはずである。

 こういう毛なのだろうか。


『む、ハバル。お前は雷魔法に適性はあるか?』

「俺は風魔法だ」

『とあると纏雷はしないでおこう。怪我をするからな』

「す、すまん」


 毛を掴んで落とされないように身を低くする。

 それを確認したガルザがゆっくりと走り出し、目的地へと向かって足を動かしていく。

 二メートル程の背丈の魔物に乗ると、視界が高くなりなんだか体が浮く感じがする。


 次第に走る速度を上げていくが、まだまだ本気で走ってはいない様だ。

 随分と気を遣わせてしまっているらしい。


『人間は軽いのだな』

「ま、まぁ……大きさが違うからな……」

『それもそうか。方角はこっちか?』

「ああ。このまままっすぐだが……あっ」


 マズい、契約のことで頭がいっぱいでナレッチのことを完全に忘れていた。

 置いて行ってしまったが……まぁ後からついてくることだろう。

 合流が少し難しいかもしれないが、あいつなら一人でもうまくやってくれるはずだ。


『? どうした?』

「いや、何でもない」

『しかし、この速度だと到着まで随分かかるぞ』

「馬車で行くよりは早いさ」


 ふと横を見てみるが、随分な速度で走っているということが分かる。

 馬の全速力でもここまでの速度は出せないはずだ。


 これで遅いとなると、本気で走られると掴んでいられない可能性が出てくるので、できればこのペースを保ってほしい。

 風魔法で何とかできるかもしれないが、戦い以外のところではあまり魔法を使いたくはないのだ。


『で、俺は何をすればいい?』

「情報は俺が見よう。基本的には周囲を警戒して欲しい」


 ハバル以外の人間の言葉を理解できないガルザは、それくらいしかできないだろう。

 だがエンリルの索敵能力は人間のそれを遥かに超える。

 十分な戦力になるのは間違いがないことだが、ハバルはその事を知らない。


 ガルザも、人間の行動のことは良く分からない。

 ガルザが見て異常がない事だとしても、ハバルから見れば異常事態であることもあるだろう。

 役割をしっかりと分ければいい連携が取れる。


『わかった。人間の行動は分からんからな』

「俺だって魔物の行動は分からんさ」

『お互い様か』

「だな」


 なんだか似たような性格。

 長いハットを抑えながらエンリルに乗るハバルは、そう思った。

 人に性格があるように、魔物にもあるのだなと理解する。


 だがこれからは仕事だ。

 そろそろ気を引き締めて行こうと、ガルザに指示を出して森の中を移動してもらうことにしたのだった。

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