7.28.暴走


『貴様ああああああ!!!!』

『『!!?』』


 ズドンという音の後、大きな揺れがその場にいた全員を襲った。

 ヴァロッドだけは立っていたようだったが、他の兵士や冒険者はその揺れに耐えることができずに地面に伏せてしまう。


 それに合わせ、凹んだ地面い手を掛けたガンマが、腕の力と足の力で大きく飛び上がり、王族へと飛び掛かった。


『駄目だガンマ!!』


 バヂヂッという音と同時に、ガンマの体が横に吹き飛ばされる。

 ベンツが纏雷を使用して体当たりをしたのだ。

 多少雷の魔法によって体が痺れているかと思ったが、ガンマは平気だった。

 そのまま諦めずにずんずんと進んでくる。


『ガンマ待て!!』


 俺もガンマを阻止するべく前にでる。

 だがこいつの身体能力強化の魔法には絶対に敵わない。

 であれば。


『冥! 合わせろ! 深淵魔法!』

『はい! 深淵魔法!』


 ガンマに二重の重力を付与する。

 流石に止まりはしたが、これでもガンマは足を曲げることはない。


『ガンマ落ち着け! お前が人間を殺せば、今までの苦労が水の泡になる!』

『んなことしったことかあ!! 許さん! 許さん! 許さん許さん許さん許さん許さん許さん!!!! あいつだけは絶対に!! 父さんと母さんを弄ぶあいつだけは!! 絶対に許さん!!』


 バヂッという音と共に、ガンマに赤い稲妻が走る。

 それは身体能力強化の魔法。

 こいつは、魔法を使わずに俺と冥の深淵魔法に耐えていたのだ。


 ズン、と足を前に出す。

 それに調子づいたのか、重力などかかっていないかのように普通に歩きはじめ、ついには走り出した。

 最大限の魔力を引き出して発動させているはずの深淵魔法。

 だというのに普通に動くことができているガンマ……。

 こいつは一体、どこまでの力があるというのか。


『ああああああ!!!!』

『ッ! ベンツ!』

『ごめんよガンマ! 雷魔法、雷爪!!』


 ガンマの隣に一瞬で移動したベンツは、雷の爪を作ってそれで切り付ける。

 実際に斬られはしないが、爪に集中された雷は非常に強い攻撃となる。


 触れた瞬間雷が弾けるが、それをガンマは弾き返した。

 ただの身体能力強化の魔法で。


『!?』

『邪魔するなベンツ!!』

『ぐっ!?』


 攻撃を無効化されたベンツは宙にいたので、回避することができなかった。

 ガンマはそれを狙って尻尾を横に凪ぎ、ベンツを遠くに吹き飛ばす。

 それにより一つの民家が壊れてしまったが、ベンツはまだ動けるようだ。

 しかし壊れた民家に体の一部が埋まり、脱出するのに時間がかかっているらしい。


「か、カレッド様! お逃げください!」

「あれはじゃれているのか?」

「違います! 兵士! 早くカレッド様を!」

「「はっ!」」


 ヴァロッドは異常事態だということはすぐ分かったようだが、野郎は平然としている。

 馬鹿なのかこいつはマジで。


 という深淵魔法ずっとかけてんだぞ!

 なんでベンツをあそこまでぶっ飛ばせる力があるんだ!


『界! ガンマを閉じ込めろ! 空間魔法!』

『了解! 空間魔法!』


 分厚い透明の壁を三枚作った。

 三重の結界であり、ガンマを完全に閉じ込めている。

 下に空間が開いているので空気の確保は問題ない。

 だが……。


 大きく腕を振り上げたガンマは、その結界を三枚一緒に破壊した。

 先ほど作った壁は厚さにして三十センチほどだったはずだ。

 それを一振りで破壊されてしまった。

 これはいよいよ、手加減することが難しい。


 だが周囲には領民、兵士などが沢山いる。

 それ故に大きな魔法を放つのはよろしくない。

 であれば……俺にはこれしか残っていない!


『天! 氷魔法だ!』

『いいのですか!?』

『この際手加減するな! 行け! 俺もやる! 氷魔法!』

『分かりました! 氷魔法!』


 拘束を目的とした氷魔法。

 これであれば力で何度破壊されようとすぐに凍って動けなくなるはずだ。

 

 地面も同時に凍らせていき、今ガンマがいる場所にまで到達する。

 すぐに足が凍り付き、大量の氷がガンマに張り付いていく。

 これであれば……流石に動きは封じれるはずだ。


『……炎魔法……』

『は!!?』


 今まで一度も使ってこなかった炎魔法を、今この瞬間使用しようとしている。

 それには流石に驚いたが、流石に使いこなせていない炎魔法に負ける氷魔法ではない。

 しかし、予想していた結果とは全く違う現象が起こることになった。


魔素狼炎まそろうえん……』


 バギィという音と立てて氷が破壊される。

 一瞬のことだったが、すぐにまた氷が形成されるはずだったが……。


『!? オール様! 氷魔法が使えません!』

『お、俺もだ!』


 そこで俺は、周囲の匂いに変化に気が付いた。

 普段であれば魔素があるはずだったのだが、それが消えている。

 さながら、あの魔素のない土地にいるような感覚になっていた。


 なんだこれはと思ったが……ガンマの様子が変わっている。

 足元に青い炎が点々と燃えており、それに魔素が吸われていた。

 このガンマの炎魔法は……酸素の代わりに魔素を使用して燃やすもののようだ。


『止まれガンマ!』

『グルアアアア!!』

『!? 捕まれ三狐!!』


 ガンマは俺に向かってタックルをしにきている。

 避ければヴァロッドと馬鹿のいる場所に通してしまうため、ここからは動けない。

 全力で止めることにする。


 身体能力強化の魔法を使用して止める。

 他の魔法も使用したいが、恐らくそういったものはあの青い炎に燃やされてしまう。

 であれば、一つの技能に集中させる。


 ぐっと踏ん張ってガンマの攻撃を受け止めた。

 有り得ないくらい強い衝撃が俺に直撃し、簡単に吹き飛ばされてしまう。

 頭を曲げて軌道をずらされ、右方向へと吹き飛ばされた。

 道が開いたと言わんばかりに、ガンマは突進し、その大きな口で……。


 王族の腕を噛み千切った。

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