7.17.受け入れられない変化
俺とバルガンはその場に座っていた。
バルガンが泣きだしてしまったので、落ち着くまで待つことにしたのだ。
余程安心したのだろう。
俺だって生きてくれている事だけで嬉しい。
再会とは、こんなにも感動的なものだとは知らなかったな。
暫くして落ち着いたのか、息を整えて俺の姿をしっかりと見始めた。
前までは俺が見上げていたのに、今では見下げる形となっている。
バルガンもそのことには気が付いているが、それを嬉しくも思っているようだった。
『よく、生きてくれましたな。オール』
『お前もな、バルガン。これ程嬉しいことは、今までになかったよ』
『はははは、そう言っていただけると、逃げ延びた甲斐がありますな……。オール、今仲間は何匹おりますかな?』
『えーと……今は三十三……匹くらいかな? まだ子供産まれる予定だ』
『そうかぁ……そうかぁ! ナック殿と戦った甲斐がありましたぞ……!』
『……』
そういえば……バルガンは今まで一匹で生きてきたんだよな。
そうなると、やっぱり人間への恨みは持っているだろう。
あの場で戦い、あの場で仲間の死を見て、こうして生き延びた。
父さんやナックのことだから、それなりの策があったのかもしれないが、それでも生きてしまったのだ。
その恨みを消しきることは絶対にできないだろう。
でもこれは、伝えておかなければならないことだ。
バルガンがどう思おうと、今俺がやろうとしていることを変える気は一切ない。
『バルガン。心して聞いてくれ』
『……? あのオールが真面目な顔でそう言うとは……変わりましたな』
『大切なことだ。お前にとっては辛い事実なんだ』
『……分かりました。聞きましょう』
バルガンも真面目な顔つきになった。
それを確認してから、言葉を続ける。
『今俺たちは、人間と共存して生活している』
『……何故ですかな』
『子供たちを守るためだ』
『今のオールであれば、その様な小賢しい真似をせずともよいのではありませんかな?』
『だろうな。だが俺が死んだ後どうする。力で押さえつける平和は俺の代だけしか持たないだろう。俺は人間と共存することで、子供たちを守れる未来を作りたいんだ。それには、人間との共存が必要不可欠な要素なんだよ』
『……話は分かりましたぞ。しかし私めは、それに賛同はできませんな……』
『何故だ?』
『私めはあの戦場におりました。目の前で仲間の血肉が舞い、倒れ行く仲間が動かなくなり、そして腹を裂かれて内臓を抉りだされるところを、見てしまったのです。先ほどまで隣で語り合っていた奴でしたな。それが……あのような……姿になったこと……私めは忘れられませんぞ……』
長い問答が一度区切られた。
だがバルガンの思っていることは俺にも理解できる。
俺も一瞬ではあったが、あの場に居合わせたのだ。
そこで一度理性をなくしたが……オートが戻してくれた。
当時の俺であれば、このような作戦は絶対に実行しなかっただろう。
だが人間は変わった。
俺たちも、変わる時だった。
『無理に変われとは言わない。ガンマもそうだったしな』
『……ということは……』
『今じゃ人間の住んでる所で寝てるよ。何でも臭くないんだとさ』
『……』
『バルガン。人間は俺たちに対する考えを大きく変えた。一部はまだ変わっていないようだが、あの領地にいる者は皆良くしてくれている。だから、俺たちも変われた』
今のバルガンには、戯言だと思われているかもしれない。
だがそれでもいい。
結果として子供たちの住む未来が明るくなるのであれば、俺は誰からにでも嫌われよう。
『まずは来い。人間とは離れている拠点もあるんだ。そこでしっかり飯を喰ってくれ。お前の体、見てられないよ』
『……そう、させていただきますかな。なんせ、ここ二年殆ど狩りができませんでしたからな……』
『あとさ……』
『なんですかな?』
気になっていたことがあった。
それはベンツとガンマも同じことだろう。
あとで二匹を呼んで、バルガンにとある話をしてもらいたい。
『父さんの……最後……教えてくれるか? ベンツとガンマも呼ぶから、その時に……』
『フフフフ、いいですぞ。ですがどちらかというと、ナック殿の最後を話したいですな』
『お? 父さんより凄かったのか?』
『オールがここにいられるのも、ナックのお陰かもしれませんからな』
『へー……』
ふらふらした体を支えながら、俺はバルガンと一緒に第三拠点に歩いていった。
こいつの匂いをシャロたちも覚えている事だろう。
希望するなら会わせてやるとするか。
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