7.11.周囲の反応


 ライドル領冒険者ギルド。

 ここでは住民の仕事の手伝いや、魔物の討伐依頼などを冒険者にしてもらっている。


 特に多いのはやはりというべきか魔物の討伐依頼。

 次に街の中での仕事で、最後に採取依頼だ。

 採取依頼は時間がかかり、あまり積極的にやろうとする人物は少ないのだが、この経験がベテラン冒険者になると必須な知識となってくるため、若手冒険者に回すのが鉄則となっている。


 採取できる薬草、食べられる果物、野草などの知識は冒険を続けていく上で非常に大切なことである。

 若手冒険者は早く魔物討伐をやりたいという子も多いのだが、基礎すらできていない者に重荷となる依頼は絶対に渡さない。


 今日もしつこく魔物討伐の依頼をせがむ若手冒険者をあしらったギルド受付嬢のナタリアは、小さなため息をついてやっと帰ってくれたと安心した。


「今日もしつこかったなぁ」

「あ、お疲れ様です」


 その様子を見ていた冒険者たちが、笑いながらそう言ってくれた。

 この光景も日常となってきているので、皆に協力してもらっている。

 何をかというと、件の少年の実力を見てもらっているのだ。

 彼がそれ相応に強くなり、魔物討伐依頼を一人で任せられるくらいになったら、冒険者たちがそれを教えてくれる。


 だが今のところは薬草採取くらいしかさせれない、というのが冒険者たちの意見だった。

 こうして周りのこの事を見てくれる冒険者たちは、ギルド職員にとっては非常に優秀な人材であり、大切な存在である。


「しかしあいつも懲りねぇなぁ。依頼選ぶ奴はまだまだだね!」

「仕事を選ぶこと自体はいいさ。それに見合った実力があればね」

「一人で頑張ってるのは褒めるべきところだけど、あんたの言う通り実力がまだないからねー。魔法も使えないんだろう?」

「そっそ。剣技一筋っ! かっけえけど、甘くねぇよなぁ」

「き、厳しいですねぇ~……」


 冒険者たちの厳しめの意見に思わず苦笑いをしてしまう。

 だがみんな心配をしてくれているのだ。

 これくらい厳しくしておかないとすぐに危ない道へ歩いて行ってしまうだろう。


 一番しっかり指導しないといけないのは自分だなと、心の中で喝を入れる。

 残った仕事を片付けるべく、書類の山を整理していく。


 仕事をしながら冒険者たちの話を聞くことが多いのだが、今回は少し面白い話をしてくれていた。


「なぁ、あのエンリル。見に行った?」

「あー見た見た! かっけぇよなぁ……。後小さいのは可愛い」

「もうすっかり馴染んだよなぁ~。でもあいつらが魔物を間引いてくれているおかげで、この辺は平和なんだよな」

「まぁダークエルフの襲撃で結構やられたけどな……。それ以外は平和かな」

「なんだったんだろうな、あいつら」

「知らね」


 エンリルたちにはあまり関わっていないと思われた冒険者たちだったが、意外と気になっているらしい。

 見に行った者もいるというし、確かにこの街に馴染んできている気がする。


 あの大きさの狼にちょっかいを出そうとする人物など、レイドくらいしかいないと笑いながら話していた。

 レイドは規格外なのだ。

 摘まんだだけで物を壊してしまうから、家では結構怒られているらしい。

 だから特注の品を用意し始めているとか聞いたことがある気がするが、真相は定かではない。


「エンリルかぁ~」


 話を聞いてみているが、悪い風には捉えられていない。

 逆にいい方向へと向かっている気がする。


 あのエンリルたちの印象が変わったのは、一番初めに死体を運ぶのを手伝ってくれた白いフェンリルがいた事と、紫色のエンリルが毒に侵された者たちに解毒治療を施してくれた時だ。

 初めは冒険者の中からも怖がる声が出ていたが、そう言う話があったということを聞いて考えを改める者が続出した。

 更には大人しいことから手入れなどをする主婦などが現れ、それに続いて手入れの道具を作る職人が現れた。

 今では子供たちも遊び感覚でその仕事を手伝っている。


 だがエンリルたちはまだ怖がっているのか、数匹の反応はまだ悪い。

 ご飯で釣ろうとしている者がいるということに少し笑いそうになったが、彼らは非常に頭がいいと聞いている。

 人と接するのと同じ感覚で接した方がいいはずだ。

 だがその辺にまだ獣と人間との隔たりが垣間見えていた。


「もう少し仲良く……というか、エンリルは何かしないのかな?」


 実際は森の魔物を狩ってくれているのだろうけど、街にいるときは基本的にゴロゴロしている気がする。

 傍から見ればただそこにいるだけの毛玉だ。

 獣だから特に気にする人物はいないのだが、エンリルたちが他にも何かしようとしてくれれば、冒険者たちとのかかわりも増えるのになとナタリアは考える。


「エンリルと戦って勝てるかな?」

「いやどうだろう? 分かんね」

「あー、あー。やめとけー? マジで」


 その会話を聞いていた一人の男性が、ぬらっと出てきてそう言った。

 ナックルグローブを付けたまま酒を飲んでいる彼は、クラウンダートというパーティーのリーダーだ。


「ナレッチさん?」

「あれに勝てるねー、ビジョンがぜんっぜん見えないから」

「そうなんですか?」

「聞きたい? 良いよ聞かせてやろうじゃない」

「え、聞いてな……」

「あれは僕が……」


 始まった。

 そう思った時には既にナレッチの演説が開始されており、武勇伝が語られ始める。

 だがそれは、いつもの物とは違い面白い物だった。

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