7.10.Side-ヴァロッド-説明結果


 アストロア王国。

 周辺諸国の中でも群を抜いて大きな国だ。

 城壁が四つも築かれているところからして、その軍事力、資金力、労働者の数が見て取れる。


 その区画一つ一つも広大であり、裕福層から貧困層まではっきりしていた。

 大きないざこざは今はないものの、小さな喧嘩だったり言い争いなどは頻繁に起っているようだ。

 これだけ大きな国であれば、そう言った事も珍しくはないだろう。


 そして一際目立つ建物が、このアストロア王国の中央に鎮座していた。

 城壁を越える程に大きな城である。

 高さ、大きさどれをとっても規格外だと言わざるを得ないその城は、どれ程遠くにいても見れる大きさであった。

 至る所で兵士が巡回しており、警備の厳重さが見て取れた。


 その城の中……様々な装飾が散りばめられている廊下には、数十人という兵士が立っている。

 王の警備にあたる者たちだ。

 誰もが同じ甲冑、武器を手に持っており、警戒を怠っていない。

 ように見せているだけかもしれないが、これだけまとまりがあるとそれもあまり気にならなかった。


 そして、とある一室から勢いよく扉を開け放って出てきた男性は、眉間に皺を寄せて額には青筋が浮かんでいた。

 会合の場を後にしたヴァロッドだ。

 彼は今、酷い苛立ちを覚えていた。


 その後ろから慌ててついてくるライドル領の冒険者ギルドマスター、ディーナは額に汗を流しながら、先ほどの話の内容の結果を咎める。


「ヴァ、ヴァロッド! あれはマズいだろう!」

「知らん!」

「知らんもこうもない! この国からの支援を切ってこれからどうするつもりだ! 私たちは発展途上で小国以下の領土しか持ち合わせておらず、民も少なく労働者も少ない! 更に護衛に当たる兵士も冒険者が居なければ成り立たない程に少ないのだぞ!」

「ダークエルフの襲撃では戦えた!」

「それはお前の能力あってこそだ! なければ今頃全員死んでいるだろうさ!」


 ヴァロッドは、アストロア王国の国王から申しだされた提案を蹴った。

 その内容があまりにもエンリル、強いてはフェンリルに不利な物であったからである。

 彼らは人間たちの事しか考えておらず、フェンリルたちのことを道具としか考えていなかった。


 ヴァロッドはディーナの言葉に足を止め、睨みつける。


「ではお前は! あの用件を呑むのか!? エンリルを飼育するために数匹寄越せ? 調教して森に放つ? 数が増えたら殺して毛皮を得る? 彼らには人間ほどの知能がある! その行為を理解し決して許しはしないだろう! その恩恵として私たちの領地に多大な報酬を寄越したとしても、それではテクシオ王国の末路と何ら変わりない結果になるのが、何故分からんのだあの王は!!!!」


 声の大きさだけで、周囲にいた兵士たちは後ずさった。

 それ程に大きな声量であり、更にはガラスにも罅を入れる。

 思わず手に持っていた武器を構えそうになるが、彼はまだ何もしていない。

 叫び散らしただけなのだ。


 言いたいことを言い切ったと言わんばかりに踵を返し、この城を後にする為に歩いていく。

 大きなため息をつきながらそれに付き添うディーナだったが、正直言ってこの先真っ暗である。


 小国にとって大きな国との同盟関係は絶対的に必要な事だ。

 ましてやライドル領は国として独立していないアストロア王国の領地。

 好き勝手なことを言って反感を買えば、それ相応の罰が下る……。


 だがヴァロッドは元々ここの冒険者。

 ここでの成果が認められ、こうして伯爵の地位にまでついたのだ。

 前任の王が生きている限り、それを簡単に剥奪はできないようで領土への支援遮断という事だけで何とか終わった。


 今の王は、利益に目がくらんでおり民の事などあまり考えていない。

 以前の王は病気にかかっており床に伏しているが、まだ生きている。

 冒険者時代はよく世話になった。

 これが崩れれば何が起きるかは、もう見当がついてしまっている。


「ではどうする? ギルドで金を稼ごうにも大本が遮断したんじゃ他の国から売買をするしかない。今まではアストロア王国に頼りっきりだった魔物の買い取りや依頼報酬だ。それに鉄や銅の供給もなくなり、食料も入って来なくなる。食料に関しては自給自足がある程度できているし、冒険者がいる限り肉が手に入るがそれもいつなくなるか分からん。他にも……」

「分かった、分かったから一度口を閉じてくれ。今の感情を持ったままでは碌に思考ができない」

「はぁ……」


 ディーナは、それもそうかと諦める。

 だが供給や支援がなくなるという事は、こういうことなのだ。

 全てを自分たちの力で何とかしなければならない。


 簡単な事ではないのだが、ヴァロッドはそれでも守りたいものがあった。

 フェンリル、エンリルたち。

 彼らを同じ境遇には陥れたくはない。


 折角歩み寄ってきてくれたのだ。

 それをこんな形で消し去ることは絶対に許されない。

 硬い意志を持ったヴァロッドは、たとえ上からの命令であったとしてもこの考えを変える気は一切なかった。


 それに、解決方法はある。

 確実な方法ではないが、それが実現できたとすれば相当な戦力になり、労働力になるのだ。


「彼らに、協力を求める」

「……彼らとは?」


 誰のことを言っているのだろうかと一度考えたが、思い当たる節がなさすぎて聞いてしまった。

 ヴァロッドは少し機嫌がよくなったのか、こちらを振り返って教えてくれた。


「フェンリル、エンリルたちに」

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