7.3.お礼


『……おい、メイラム』

『……』

『おい……何とか言ってくれ。それどうした? 何があった?』


 現在、メイラムは全ての人間の治療を終えて俺が座っていた広間に来ているわけだが……。

 どういうことか、変な飾りつけが沢山されていた。


 エンリルの大きさは大体二メートルから二メートル五十センチ程度。

 人間からすれば結構な大きさの狼になるのだが……その大きさの合うようにして様々な装飾品が飾り付けられているのだ。

 紫色の毛並みにはその明るい装飾は良く目立つ。


『……フフッ』

『笑わないで、頂きたい……』


 いや、だって頭やら首やらにめちゃくちゃな飾り付けがされてあるんだもん。

 そりゃ笑っちゃいますよ。


 全部が全部豪華な物とはいかないが、それでも髪に止めるピンや安そうなブレスレット。

 高価な物ではネックレスや冠などがある。

 バランスもくそもあった物ではない。


『で、なんでそんなことになってんだ?』

『げ、解毒した人間から……多くの……なんですかこれ?』

『まぁ飾りだな』

『……飾りを付けられまして……。これには、どういった意味が?』

『礼だよ。お礼』

『お礼……ですか?』


 十中八九それしかないだろう。

 人間では治せなかった毒を、メイラムは解毒してくれたのだから感謝するのは当たり前である。

 誰が初めに飾りつけをしたか分からないが、それに倣って礼と称して飾りつけをしたのだろう。


 しかし何故取らないのだろうか?

 邪魔だったら体を振るって取ればいいものを。


『取ると、また付けられるのです。人間に触られるのは……あまり好きではないので、最低限に留めようかと……』

『そ、そういうね……』


 こいつもこいつで結構我慢していたんだな。

 ていうかベリル、通訳がいるなら止めてやれよ。


 だがしかし……見れば見る程面白いな。

 いやほんと、マッチしてないっていうが、似合わないっていうか……。

 うん、これは似合わないのだろうな。

 適当に付けまくりました感が満載すぎて、誰が見ても変だと思われるだろう。


 これがいいとでも思って飾りつけをしたのだろうか?

 この世界の人間の感性は俺の常識の範囲から随分かけ離れているのかもしれないな。


 でも……。


『いい傾向だ』

『……そう、なのですか?』


 好感度は確実に上がっていると思うぞ。

 段々とこの人間の里に馴染んできている感じはする。

 そうじゃないとこんなデカい狼に装飾品なんか付けて遊びはしないだろう。


 まぁ一番この人間との交友関係に貢献しているのは紛れもないセレナだがな……。


『キャー!』

「かわいいー!」

「ベリル! 触らせて!」

「ちょ、もみくちゃにしないで!」

『もむにゅにゅにゅ……』


 少し離れたところで、セレナが子供たちに撫でられている。

 随分と気持ちよさそうにしているな。


 人間の子供たちも俺たちに随分慣れたようで、最初こそ怖がっていたが今はそうでもなくなった。

 適応力凄まじいな。


 そして……陰で睨みを利かせるお父さん狼一匹。

 その圧は戦闘中だけに抑えてくれると嬉しいのだが。

 でも睨まれていることに気が付いていない人間の子供たちは、相変わらずセレナと遊んでいる。

 セレナも一匹で相手をするのは大変じゃないかと思ったが、そこはベンツの娘。

 ある程度動き回ったとしても元気に走り回っている。


 君のスタミナは無尽蔵なのかと疑いたくなる。

 逆に人間の子供たちの方がへばってしまっているようだ。


『オール様』

『ん?』

『人間は……オール様やベンツ殿、ガンマ殿が言っていたような……生物なのでしょうか? 俺には分からなく、なってき……ました』


 メイラムは、実際見たわけではないからあのことは知らない。

 それに人間を見たのもベリルが初めてだ。


 こいつの考えは、今この状況に置いてはとてもいい考えなのだが……。

 俺はそれを悪用することはできない。

 彼らのことを理解してもらわなければならないからだ。


『確かに俺は、人間に家族を殺された。それは間違いない』

『か弱い生物ですが』

『そうとは限らない。俺たちを殺せる程に強い人間がいるように、俺らが腕を振り下ろせば死んでしまう人間もいる。それと同じように、悪い人間とそうでない人間がいる。見極めるのは難しいが……少なくとも彼らは後者の人間だ』

『はぁ……』


 あまり納得できていない様な反応を示してから、人間へと目線を向ける。

 メイラムからすれば、あの程度の毒を解毒することができる人間が一匹もいないことに驚いていた。

 臭いからも脅威を感じない。

 少し唸れば腰を抜かしてしまい、動けなくなってしまう人間。

 そんな奴らの何処が脅威になるのかと、心底疑問に思っていたのだ。

 オールやベンツの話を嘘だとは思ってはいないが、それにしても弱すぎると感じたようだった。


『だが手を出してくる者には容赦はするな』

『分かり、ました』


 ここにはそういった人間はいないだろうが、念のために。

 警戒だけはまだ怠るわけにはいかない。

 利用し利用されている関係であるのだから、それは当然の事である。


 俺はある程度警戒は緩めてるけどね。

 何かあっても何とかなりそうだし。

 おっ?


 どうやら、ラインが仲間を連れてこちらに来たようだ。

 数は少ないが、来てくれるというだけ有難いな。


『って! ガンマぁ!? それとシャロ!?』


 何であいつらが!?

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