7.2.人間への解毒治療
治療をするため、すぐにでも向かいたいところだったが、急に行って驚かれてもいけないので、ベリルとセレナを連れて行くことにする。
メイラムの魔法は毒々しく、一見しただけでもそれが恐ろしいものだという事が分かってしまう。
誤解を招かれてもいけないので、まずはベリルに事情を説明してもらうことにする。
そして毒に侵されている人間の所に訪れ、狭い部屋の中を窓から見てみる。
もうここの住民は俺たちの事を怖がることはしなくなり、仲良くしてくれていた。
良い兆候だと思いながら、俺は連れて来たメイラムに指示を出す。
『こいつだ』
『……この人間を、治せば……いいのですね?』
『他にもいるがまずはこいつだ。頼めるか?』
『やってみましょう』
その前に、ベリルがその家族たちに事情を説明してくれた。
「えっと、今から解毒治療に入るみたいです」
「え、エンリルが……? それは大丈夫なの? 私のお父さんは……」
「大丈夫です。僕も同じ毒に侵されましたが、エンリルたちが治してくれたんです」
「そ、そうなの……?」
まだ半信半疑といったところだが、このままでは体の中にある魔力組織が全て破壊されてしまう。
それだけは避けたいので、メイラムを少しだけ急かして毒治療を開始してもらう。
毒々しい色の球体を作り出し、それを男性の口元に近づける。
『……オール様』
『セレナ、口を開けさせろと通訳してくれ』
『あいっ!』
すぐにベリルが通訳し、彼の口を開けさせる。
ぬるっと紫色の球体は体の中に入って行き、治療が開始された。
「ぐっ!?」
「!? だ、大丈夫!? 大丈夫なの!?」
「大丈夫です! 落ち着いてください!」
男性は随分と苦しそうにしていたが、それも次第に収まっていく。
メイラムは目を閉じて集中しているので、今は声を掛けてはいけないな。
こいつを信じて待つことにする。
すると、ベリルを治した時よりも早い段階で目を開ける。
口から真っ黒になった球体が出てきて、それをメイラムは食べてしまった。
それは大丈夫なのかと思ったが……どうやら自分に毒を摂取して詳しく分析をしているらしい。
治せることが分かった毒なので、体の中に入れても全く問題がないのだとか。
『そういうのは初めに言ってくれ……』
『すいません、ですがこれで……大丈夫です』
『早かったな』
『同じ毒を解毒するのは、そんなに難しい事では……ない、です。ですがやはり魔力組織……の損傷が、激しいです。生き永らえる、分には問題……ないですが』
『十分だ』
容体は安定したようで、呼吸も落ち着いた。
後は目が覚めるのを待っていれば大丈夫だろう。
一日は眠ってしまうだろうし、起きたら相当な違和感に襲われるだろうが、その事についてもセレナを通して人間に教えておく。
違和感は魔力総量の減少によるもので、今までのようには魔法は使えないこと。
これは結構重要なことなので、しっかりと認識してもらっておく必要がある。
だがその代わり命に別状はないし、普通に生活する分には全く支障はないということも教えておいた。
それを聞いて家族らしき人間はほっとしている。
ベリルに感謝の意を述べているが、それは違うと首を振る。
「助けてくれたのは、この紫色のエンリルですよ」
「あ、そうでした……。ありがとうございます」
女性は深々とこちらを向いて頭を下げる。
家の中に入っていたメイラムは一度だけ鼻を鳴らすと、すぐにその家を出ていった。
外に出てからすぐに匂いを嗅ぎ、次の患者の場所に向かっていく。
通訳が絶対に必要なので、ベリルはセレナを抱いてメイラムについていった。
後はあいつらに任せておいても問題なさそうだ。
しかし、この人間たちも良く信じてくれたものだ。
まぁベリルの存在が大きいのかもしれないな。
こいつの評判はヴァロッド同様いいみたいだし、冒険者たちにも顔を知られているらしい。
顔が広いんだろうな。
俺たちだけでは警戒されて解毒はしてもらえなかっただろう。
だがこれで、また好感度は上がったんじゃないかな。
じゃあ俺はまたそのへんぶらぶらしておくかな。
ベンツは距離を取ってあいつら追いかけていったみたいだけど。
本当であればもう少し理解のある仲間たちを迎え入れたいが……難しそうだなぁ。
ガンマは絶対に無理。
なーんかいいきっかけでもあるといいんだけどね。
ま、時間が解決してくれるかもしれないな。
それを信じて待つことにするか。
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