6.27.Sdei-ベリル-見知らぬ天井
比較的暖かい部屋はとても心地が良い。
寝ているベッドが少しチクチクとするが、慣れてしまえばそんなに嫌なものではなかった。
コロンと寝返りを打った時、少し口が開いていた様で何かが口の中に入る。
「……? ふぇっ」
目を開けて口の中に入った物を見てみると、葉っぱだった。
上を見てみると全く知らない天井が広がっており、家具も何もないただの小屋の様な部屋に寝かされていたらしい。
ベッドだと思っていたのは葉っぱの山。
どうして自分がこんな所に居たのか思い出せず、周囲を見渡してみると……。
大きな黒い目玉が二つ見えた。
「ひっ!?」
『
大きな紫色の狼がそこには座っていた。
ベリルが起きた事を確認するとのそりと立ち上がり、外へと出て行ってしまう。
取り残されてしまったが、自分はどうすればいいのだろうとその場で固まってしまった。
と言うよりここは何処だろうか。
暖炉で火が燻っている所を見るに、誰かがこの部屋を暖めてくれていたようだが……。
「あの狼……。でも紫色……?」
ベリルが見たあの本に紫色の毛並みをした狼はいなかったはずだ。
誰かが飼いならしている狼なのだろうか?
そこで、ふと腹部に違和感があることを覚える。
見てみると、服に小さな穴が開いていた。
「……あ!」
それを見てようやく思い出した。
自分は何者かに矢を射られて気絶したはずである。
毒が仕込まれていたという事を聞いたのは覚えているが……そこからはよく思い出せない。
ここで寝かされていたという事は治療も誰かがしてくれたようだ。
触って確認してみるが、傷跡も残っていない。
ここまで高度な回復魔法と解毒治療ができる人がいるのかと驚いてしまう。
しかし……。
「あれ……?」
体に妙な違和感を覚えた。
力の入り具合や動かし方には何ら支障はないが、何かが減ってしまったような感覚がある。
自分でもわかる程の減少量。
これは何なのだろうと考えていると、外から何かが走ってくる音が聞こえ始めた。
すると入り口から小さな白っぽい狼が走って来た。
速度を緩めることなく、小さな狼はベリルに突っ込んだ。
「いてっ!」
「わふわふ!」
「ん!? あれ!? あの時の!」
「わふ!」
白色に黒い線が入っている小さな狼。
この子は以前ゴブリンに襲われていた時に助けた子だ。
特徴的な毛並みをしているのでよく覚えていた。
「ていう事は……」
「グルアァ!!」
「おわああああ!?」
突然入り口から大きな黒色の狼が顔を出した。
先ほどの紫色の狼とは全く別の個体らしい。
大きさは三メートルはあるだろうか……。
巨大な狼が牙を剥き出しにしてベリルを威嚇しているように感じる。
「グルッ……」
驚いているベリルを見て、黒い狼は牙を仕舞った。
だがすぐに近くにいた小さな狼を咥え上げ、外に連れ出してしまう。
その間にも何か抗議している様だったが、話を聞く気はないというった風に容赦なく摘まみ出したようだ。
ここでじっとしているわけにもいかないと思い、すぐに立ち上がって外に出る。
すると、そこは非常に綺麗な場所であった。
綺麗な川が流れ、大きな洞窟が口を開けている。
周囲は木々に囲まれてはいるが、ここは少しばかり開けている様だ。
そして何より驚いたのが、様々な毛並みを持っている狼たちが生活をしているという事。
それを見て理解したことがある。
ここは、エンリルの棲み処なのだと。
すると、奥の方から紫色の狼と、あの白い大きな狼が歩いてきた。
「フェンリル……だったのかぁ……」
今まで一緒に話をしていた狼がフェンリルだと、この状況を見て理解できた。
他の個体に比べて明らかに大きさの違う白い狼。
これこそがフェンリルの特徴であった。
周囲の狼は全てエンリルなのだろう。
それを従えているのがこのフェンリル。
人間である自分と会話ができるのも納得できる。
「……あ、もしかして……。助けてくれたのか……」
あの時は助けを呼ぶ事もできなかった。
皆に行先も伝えていなかったので、助けが来ることはなかったはずだ。
恐らくこのフェンリルが、自分がまたあの場所に来ている事を理解して来てくれたのだろう。
そしてここで治療をしてくれた。
「あ、有難う御座います!」
フェンリルが近くに来たと同時に、礼を言う。
紫色の狼とフェンリルはそれから何かを話し合っているようなそぶりを見せたが、すぐに紫色の狼は何処かへと行ってしまった。
自分の役目は終わったと言う感じだ。
「グルゥ」
「え? おわああ!」
急にフェンリルから伸びてきた黒い鞭の様な物に巻き取られ、背中に乗せられる。
周囲を一望できるほど視界が高くなった。
黒い鞭でしっかりと固定され、落ちないようにしてくれているという事が分かる。
「ガルァ」
「な、なんです?」
「……」
「? うわああああ!!!!」
急に姿勢を低くしたと思ったらいきなり走り出した。
とんでもない速度で呼吸ができなかったが、鞭で体勢を低くしてくれたので何とか息はできるようになる。
長い毛を掴んで離されないようにしておき、必死になってしがみつく。
何処に向かっているのかは分からないが、今はそれどころじゃないベリルだった。
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