6.16.魔素のない大地の調査


 魔素のない大地に近づくにつれ、木々が少なくなっていく。

 魔素を必要として成長する植物はこの辺りでは活動ができない様だ。


 地面に生えている草もなくなり、ついには土も枯れて岩だらけの場所に出る。

 遠くを見てみても岩が転がっているだけで緑が一つもない。

 この魔素のない大地は非常に広大だ。

 砂漠程の大きさはるのではないだろうか?


 だがその最果てに行ってみれば森が復活し、その奥には人の里があるのだろう。

 そうでなければ子供が近づくはずがない。

 人里の調査はそこの付近に行ってからにしよう。


 隣にいるヴェイルガだが、少し辛そうに歩いていた。

 恐らく魔力を吸われているのだろう。

 途中で魔力を補給してやった方が良いかもしれないな。


『大丈夫か?』

『お、オール様……この大地、僕にはきついかもしれません……。すでに半分以上の魔力を吸われてしまっております……』

『それは駄目だな。一度戻るぞ』

『申し訳ございません……』


 魔力譲渡を一度行ってから、ヴェイルガを背中に乗っけて魔素のない大地を抜ける。

 魔力が吸われない場所に到着した後、ヴェイルガを降ろして水魔法で水を作って飲ませてやった。

 それにより回復したようで、今は元気だ。

 よかったよかった。


『オール様。恐らくですが、僕たち一角狼はこの魔素のない大地は歩けません』

『何故だ?』

『角です』


 ヴェイルガは角を目で見て、そう言った。

 どうやらヴェイルガの魔力は角を通じて外に放出されていた様で、その量が非常に多かったらしい。


 一角狼はその大きな角を使って雷魔法を制御し、発動させる。

 魔力が一番貯まりやすいのはそこで、体の中にある半分以上の魔力は角にあると言ってもいいだろう。

 そこは重要な部位でもあり、急所でもある。


『そこから魔力を吸収されるとなると……』

『はい。すぐに僕の中にある魔力が消えてしまい、活動ができなくなります。他の一角狼も同じだと思いますので、僕たちの種族はこれ以上魔素のない大地には近寄れません。お力に慣れず申し訳ないです……』

『いや、いい。そう言う事も知っておきたかったんだ。だがこうなるとは思っていなかったけどな』


 一角狼は魔素のない大地で活動はできない、か。

 個体によって魔力が吸収される量も違うかもしれないな。


 しかしベンツは俺がセレナを連れて帰ってくるまで元気に走り回っていたはずだ。

 俺たちエンリルであれば、魔素のない大地で活動はできるのかもしれないな。

 今度はシャロを連れてきてみるとしよう。


 だがここまで来てすぐに帰るのもあれだな。

 もう少し何か調べておきたい所ではあるが……こんな所じゃ調べる物なんて何もないか。

 魔物や動物もこの辺にはいない様だしな。


『じゃあ最後に……。ヴェイルガ。レーダーを使ってこの奥にあると思われる人間の棲みかを探ってくれ』

『了解しました! 一点集中なので範囲は狭く、一度では見つからない可能性がありますが……』

『魔力譲渡で魔力を渡し続けておく。見つかるまでやってみてくれ』

『はいっ!』


 ヴェイルガは低い姿勢を取り、角に魔力を集めていく。

 バチバチと弾ける雷魔法。

 地味だが、ヴェイルガはこの小さな雷で遠くの方を探っているのだ。

 魔力の消耗が激しく、譲渡した魔力もすぐに減って行ってしまう。


 供給が間に合わないなと思いながらも、とりあえず魔力譲渡を続けておく。

 渡す魔力を増やすこともできるが、そうするとヴェイルガの体に負担がかかる可能性がある。

 できるだけそう言う事は避けておいた方が良いだろう。


 すると魔力が減っていく感覚が無くなった。

 俺はすぐに供給を止め、ヴェイルガの方を見てみる。


『ありました』

『どうだった?』

『……随分と大きな棲みかです。人間の数も多いですね』


 まぁその辺は予想していた通りだな。

 あの少年は言葉遣いも綺麗だったし、身なりもそれなりの物だった。

 この世界の人間の情勢なんて知らないけど、ここが異世界だという事は理解している。

 なので、貴族や王族といった存在はいるのだろう。


 少年はその息子か何かだろうな。

 名前に誓ってとか、貴族が言うくらいしかイメージないし。

 あの年で爵位とかあったら面白いけどな。


『石で棲みかを作っているようでした。ですがあまり強そうな印象を受けませんでしたが』

『あいつらを舐めてかかってはいけないぞ。良いなヴェイルガ』

『はい』


 後程ヴェイルガに人間の里の形を聞いて、地図を作ってみることにしよう。

 大体の姿が分かれば、そこにどれだけの人間がいるかも把握できるかもしれないしな。

 俺にそんな力はないので、ヴェイルガの能力に頼ることになりそうだが。


『よし、じゃあ帰るぞ』

『分かりました! あ、それと……。一匹の小さな人間がこちらに向かって来ておりましたが、いかがいたしますか?』

『……様子だけ見ておく。お前は先に帰っておいてくれ』

『はい!』


 俺が指示すると、ヴェイルガはすぐに棲みかの方へと戻って行った。

 それを見送った後、もう一度魔素のない大地に足を踏み入れる。


 小さな人間か。

 今は向かい風だから、匂いを辿ればすぐにその存在を把握できた。

 どうやら、あの少年がまた同じところに向かってきている様だ。


 何をしに来たかは知らんが、とりあえず様子だけ見ておくことにしよう。

 会うのは避けたいしな。


 とりあえずその少年の元へと足を運んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る