5.33.道中


 竜の住処までは随分と距離がある様だったので、俺は狐たちを不本意ながら背中に乗せて走っていた。

 どうして俺がここまで働かなければならないのだろうか。

 だが子供たちの安全には代えられない。

 リーダーらしく頑張って仕事をします。


 ていうかそもそも、どうして竜は暴れているんだ?

 それを俺は知らない。

 狐たちにそのことを聞いてみたら、すぐに答えは返って来た。


『『『竜はリーダー争いをしているのです』』』

『ここと同じだな』

『『『実は、一匹の強い竜がいるのです。ですがリーダーという物に全く興味がないようで、争い自体を放棄しています』』』

『そいつに動いてもらえれば、何とかなるかもしれないって事ね』

『『『その通りです』』』


 その竜は他の仲間からも慕われていたらしい。

 なので、リーダーになるならこいつしかいないと考えていたようなのだが、そいつは争いを放棄した。

 リーダーを諦めていた竜。

 リーダーを諦めきれなかった竜たちが、今は争いを加速させているらしい。


 一匹が放棄するだけでまさかそんなことになるとはな……。

 リーダーって別に面白い物じゃないと思うけど。

 責任が降りかかって来るしな。


 とりあえず俺は、そいつと話を付けに行けば良さそうだ。

 そいつさえ動かせれば、何とかなるだろう。

 最悪俺たちとの友好関係を結んでくれたらそれでいい。

 やるかどうかはそいつ次第だからな。


『そう言えば、その強い竜ってどんな奴?』

『『『なまじ力が強いので、他の竜からは恐れられていました。優しい性格なのですが、力を振るう時は加減が出来ない様です』』』

『怒らせたら俺死ぬんじゃねぇのかな』


 やっぱり受けるべきじゃなかったかなぁ……。

 でもこっちまでこられたら困るし、これは仕方がない。

 もし何かあったらワープで逃げよう。

 そうしよう。


 でもあれだ。

 その竜、力と性格が一致していないのかもしれないな。

 優しい性格であるのに対して、群れで一番強い力を持っている。

 優しい奴なら暴力とかで事を解決したりはしたくないだろう。


 俺は別にそんなことなかったけど……。

 もしそうだったらちょっとかわいそうだよなぁ。


『『『それと聞いた話ですが、竜は食事を必要としない様です』』』

『じゃあ何食ってんだよ』

『『『魔素ですね』』』

『……お? 仙人か??』


 魔素食ってんのか。

 仙人が霞み食ってんのと同じ感じだな。

 でもまぁ、あんなデカい個体が何体もいれば、それに見合う食料なんてなかなかないわな。


 でもいいなぁ。

 俺も魔素だけ食べて生きていきたい。

 食料消費激しんだよ俺だけ。

 つってもそんな器用な事、できそうにないけどな!


『ああそうだ。えーと……狭間狐の界だっけ?』

『はいはい?』

『お前の空間魔法教えてくれ』


 空間魔法はもしかすると逃げるときに役立つかもしれないからな。

 ここで少しでも話を聞いておきたい。


 すると、界は少し考えた後に空間魔法について教えてくれた。


『空間魔法は光魔法と闇魔法の複合魔法でございます。空間を把握するのが光魔法。その間の次元を歪ませるのに闇魔法を使用します』


 おっ!

 闇魔法と光魔法ってそうやって使うことが出来るのか!

 これでニアにも教えられるぞ!

 で、何ができるん?


『空間魔法は透明な壁を出現させたり、魔素を吸収する結界などを作り出すことが出来ます。闇魔法のワープも少なからず光魔法を使用しているのです。後は……使い様ですね』

『…………』


 俺が昔見たあのドーム。

 魔素を吸収するって奴だよな。

 てことは、人間は普通に複合魔法を使う可能性が高い。

 いや、基本的に使えるのかもしれないな。


 俺は忘れないからな。

 あの魔法。


『お前はそれを使ってどうやって戦うんだ?』

『空間魔法は相手を閉じ込める事に特化しています。なので、閉じ込めた後は天と冥に基本任せているのです』

『なるほどな』


 閉じ込めるね。

 確かにそうかもしれないが、これはちょっとまだ使えなさそうだな。

 練習が必要そうだ。

 逃げる時に使うのはワープだけにしておくか。


 よし、話も聞けたことだし、そろそろ飛ばすか。

 俺は狐三匹を闇の糸でしっかりと固定する。


『『『オール様? これは?』』』

『捕まってろよ』


 身体能力強化の魔法と風魔法だけを使って、走る速度をさらに上げた。


『『『ぎゃあああああああああああ!!』』』

『舌噛むぞ~』

『『『わああああああああああああ!!?』』』


 聞いてないな。

 まぁいいか。


 俺は狐たちに指定された山へ駆けて行った。

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