5.28.長期戦


 俺の毛並みは白い。

 更に体もデカいので、敵の前に来れば一番初めに見つかってしまう。

 既に敵は俺の事をターゲットとして認識している様で、左右前方から強い視線を向けられている。


 周囲にいる敵は約三種類。

 犬の様な魔物、蟹の様な魔物、そして最後に猿の様な魔物だ。

 だがその姿は俺の知っている物とは随分異なる。


 犬は炎を体に纏っており、触るだけでも火傷をしてしまいそうだ。

 蟹に関しては鋭い爪が四本程伸びており、体がでかい。

 それが数百もいるのだから恐ろしいまである。


 だが一番危なそうなのは猿だ。

 手には棒の様な物を持っているのだが、その棒に様々な魔法の属性が備え付けられている。

 雷を纏っていたり、炎を纏っていたり。

 使う魔法の属性によって毛並みが変わっているので、どの猿がどのような魔法を使うのかという事は一発で分かった。

 だがあれはあまり近づかない方がよさそうだ。

 できる事なら遠距離で対処しよう。


 場所は森の中。

 俺としては少し不利かもしれない。

 だがやれるだけはやってみよう。

 もし無理なら、この辺の木を風刃で切り倒すまで。


 初めに飛び掛かって来たのは犬だ。

 攻撃射程距離が短い為か、全力でこちらに走ってきている。

 火には水と相場が決まっている。

 俺は銃水弾を展開して、犬目がけて発射していく。


 これは普通の水弾とは違う。

 水弾は硬い水が当たって打撃ダメージを与えるが、これは貫通する。

 本当の銃弾の様に飛んでいくのだ。

 その為少し魔力は消費するが、それでも気にならない程度である。


 心なしか、以前にもまして魔力総量が増えたような気がする。

 水狼の王を使用してもあまり苦にはならなくなったのだ。

 消費が激しいのは元からなのだが……。


 まぁ使えているのであれば問題ない。

 俺は大量の銃水弾を発射して襲い掛かってくる犬を返り討ちにしていく。


 三方向から来ているので対処が少し遅れるところがある。

 その隙をついて犬は俺の目の前に何匹かやって来た。


「グゥアアア!」

『ビンタ』


 タイミングよく腕を振るい、犬を吹き飛ばす。

 身体能力強化の魔法を発動させていたので、その威力は俺が思っていたより強かった。

 勿論ガンマ程ではないのだが、それでも吹き飛ばした先の犬を何匹か撒き込むくらいの威力がある。

 これだけでも全然使えそうだ。


 しかしこの犬。

 俺が手を振れる程にまで近づいてきたというのに、炎魔法を使わなかったな。

 接触しないといけないのだろうか。

 まぁ変なことを考えるのはやめよう。

 次だ次。


 暫く犬の相手をしていると、様々な魔法が一気に俺の方に飛んできた。

 それに気が付いた俺は、氷魔法で防壁を張る。

 透明なので向こうが見えるのはありがたかった。


 一体何処から飛んできていたのかを確認する為に周囲を見渡すと、いつの間にか俺の周囲に猿の群れがいた。

 囲まれているようだ。

 猿共が楽し気に棒を振り回している。


 やっぱり森の中で戦うのは不利だったか。

 猿は……全部木の上にいるな。

 ならば……!


『植操!』


 今思いついた土魔法!

 植物……今回は猿の乗っている木だが、それを操って猿を全て拘束する。


「クギャッ!?」

「キャキャッ!!?」

『そのまま絞め殺す!』


 これで猿の方は問題ないだろう。

 後は犬と蟹!

 蟹は面倒くさいことに、銃水弾では殺せない様だ。

 硬い甲羅が邪魔をしている。


 水系の魔法を得意としているのは目に見えているので……。

 そろそろ一気に片付ける。


『雷狼!』


 バヂヂヂッという音と共に、二体の雷狼が出現する。

 およよ?

 前は一体だけだったのに、今は二体にまで増えたのか。

 まぁそれならそれで都合がいい!


 それを出来るだけ遠くに伸ばす。

 俺と雷狼は雷の糸で繋がれている。

 そこで、その雷の糸を足元に移した。


『っしゃ行くぜ!』


 身体能力強化の魔法、雷魔法の纏雷、そして風魔法を使って一気に敵陣に潜り込む。

 雷狼は俺の動きについてきてくれている様で、接触した魔物を雷で焦がしていく。

 それは雷の糸に触れた魔物も同じだ。

 一直線に伸びた雷の糸が魔物に触れると同時に、大きな弾ける音がして魔物は黒くなる。

 これをひたすらに続けるのだ。


 今回は都合の良いことに鳥型の魔物はいない。

 なので上空に気を使う必要がないのだ。

 地面に接触している魔物のほとんどは、この魔法で殺すことが出来た。


 足を止めて雷狼を解除する。

 走っているだけで相当な数の魔物を減らすことが出来た。

 後方を見てみれば、黒くなった魔物が多数転がっている。

 とりあえず戦闘でもこの魔法は使えそうだ。


 水狼の王も随分と暴れているようだ。

 それならそれで問題なさそうだが、何体かの水狼は自爆して数を減らしてしまっているらしい。

 後で水狼の王に魔力を補充させておいた方がよさそうだ。


 ガンマのいる方では大きな音が響いている。

 木の倒れるような音が聞こえているが、あれは魔物を吹き飛ばした時に生じた物だろう。

 そう信じたい。


 ベンツの方では俺と同じ様に雷魔法で戦っているのか、森の一部から黄色い閃光が何回も光っていた。

 あの速度についてこれる奴はいないのだ。

 負けるはずもないだろう。


『ていうか俺の場所……。なんもいなくなってしまった……』


 気が付けばここは魔物の群れの最後尾だったようだ。

 そこまで突っ走ったつもりはなかったのだが……。


 意外とすんなり終わってしまった。

 やっぱり数ではなく、強い敵が出て来てくれないと俺の魔法はあまり効果を発揮しないかもしれないなぁ。

 残念である。


『……?』


 遠くから匂いがした。

 似たような匂いだ。

 俺は集中してその匂いを辿る。


 そこには……。

 今俺たちが対峙している魔物の軍全よりも、更に多い数の敵がこちらに進軍してきているようだった。

 今回は鳥型の魔物もいるらしく、空にも数多くの魔物の匂いを感知できる。


『……物量作戦かぁ……?』


 延長戦は好きじゃないんだが……。

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