5.13.我儘
回復魔法で回復させた一角狼は、目を覚ました。
負けたという事はすぐ理解したようで、しょんぼりとしている……。
どうしてそんなに落ち込むのか分からないけど……こちらから話しかけないと口を利いてくれなさそうな雰囲気だ。
『ううぅ……』
『……』
泣くなよ……。
とりあえずこの一番角の長い狼が群れのリーダーなのだろう。
子供みたいに見えるけど、これでも大人の狼のようだ。
ていうかこの群れって四匹だけなの?
他にはいない……っぽいなぁ……。
『おい』
『うわあああああん!』
『うるっせえな話聞けよ!』
『いやだああああ!!』
おいなんだこのガキ!
めっちゃ暴れるじゃねぇか!
何なんだ一体!!
隣で見ていた一角狼が、一度ため息をつく。
『……すいません。うちのリーダーが』
『リーダー言うな! 殺される!』
『……うちのヴェイルガ……』
『僕はリーダーだー!!』
『『何だこいつ』』
俺とベンツの声が揃った。
めっちゃくちゃ我儘じゃねぇか。
本当にこいつこの群れのリーダーなのか!?
よく今までやって来たなおい!
こんな我儘なリーダーに振り回されて来たんだなお前ら……。
ていうかやっぱり殺されるってのは共通なんですね。
リーダーの交代はその肉を食ってするらしいし、仕方ないのかもしれない。
でも、俺こいつ食うの嫌だよ。
食う気もないけど。
『まぁ、とりあえず殺すつもりはないから安心しろ』
『……は?』
『え!?』
まぁそう言う反応になりますよね……。
とは言え、従ってくれないのであれば、そう言うわけにはいかなくなる。
それだけはしっかり聞いておかないとな。
『お前らは、俺に従ってくれるか?』
その問いに、四匹の一角狼はきょとんとした表情で俺を見る。
従うも何も、普通はリーダーを食ってその仲間を従わせるものだ。
向こうからすれば、何故そんなことを聞くのだろうと思っているに違いない。
これを何度も説明するのは面倒くさいが、しっかりと理解してもらわないといけないことだ。
何度でも説明しよう。
『俺は今、えっと……ヴェイルだっけ?』
『ヴェイルガだ!』
『……俺は今、ヴェイルガを食うつもりはない。お前たちが俺たちに従ってくれるというのであれば、の話だが』
『本当か!!?』
元気よく俺にズイッと近づいてくるヴェイルガ。
それを見て、他の一角狼はげんなりとしていた。
お前、信用ないな……。
どんだけ嫌われてるのよ……。
って、こいつらいっそのこと食われてくれって思ってなかった?
え、気のせい?
俺の気のせいだよね??
そこで、俺はヴェイルガを見る。
無垢な瞳でこちらを見てきており、本気で殺さないでくれると信じ切っているようだ。
その姿は、やはり子供のように思える。
『……お前、どうしてリーダーなんてやってんだ? 他に
『僕たちの種族は角の長い狼がリーダーになるんだ!』
あ、そう言う事ですか……。
好きでリーダーになったわけでもなければ、リーダーにしたくもなかったわけね……。
うん、嫌いじゃないよそういうの!
これが俺のできる精一杯のフォローだった。
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