5.4.少ない群れ


 同族を発見して黙ってはいられない。

 俺たち四匹は山の探索を止めて、すぐにその匂いのした方へと走る。

 子供たちも近づくにつれてそれに気が付いたようで、より一層警戒を強めた。


 相手も俺たちが走ってきているのに気が付いているはずだ。

 もしかしたら反撃される可能性があるかもしれないので、いつでも防御する準備をしておこう。


 近づいて行くと、詳しい数が把握できた。

 どうやら七匹いるらしい。

 それが全て俺たちの方向を向いて待機していた。

 やはり警戒しているのだろう。

 まぁ無理もない話ではあるが。


『お前らちょっと俺の後ろにいろよ!』

『なんで!?』

『向こうも随分警戒している様だ。出て来た瞬間に魔法撃ち込まれるかもしれん!』

『わ、わかった!』


 子供たちを俺とガンマの後ろに後退させる。

 ガンマもとりあえず俺よりは後ろにいるので、まず的になるのは俺だろう。

 これでいい。


 小さな丘を越えると、ようやくその姿を目で見ることが出来た。

 そこには、七匹の狼が魔法を展開して待ち構えている。

 俺が出て来た瞬間に、二匹の狼が魔法を放つ。

 残りの狼は俺の姿に驚いたのか、魔法を引っ込めた。


 だが今は飛んできた魔法を何とかしなければならない。

 飛んできている魔法は水魔法と、見たことのない紫色の物体。

 どれも液体の様だったので、ここは新しい魔法で打ち消してやろう。


『氷魔法!』


 炎魔法と水魔法を複合して魔法を放つ。

 炎魔法で温度を下げ、水魔法で作った水を凍らせる。

 周囲はパキパキッと氷はじめ、飛んできた魔法をも凍て付かせた。

 液体は物量を増してゴトッと地面に落ちる。


 とりあえず初撃の攻撃は回避することはできた。

 土魔法とかで防御したほうが確実だったけど、それだとまた姿を隠すことになっちまうからな!

 氷魔法覚えておいてよかったぜ!

 マジで助かったぞレイ!


 攻撃を放った狼二匹も、俺の存在をしっかりと見て魔法をしまったようだ。

 その後に、ガンマとシャロ、デルタも顔を出して、前にいる狼たちと目を合わせる。

 二匹は初めて自分たちとは違う同族を見て、物珍し気にしているようだ。


 だが……確かにあいつらの毛並みは俺たちとはどこか違う。

 紫の毛並み、赤茶色、青みがかった手先の白い毛。

 魔法の色が毛にも表れているような感じだ。

 俺たちには表れてないけど……。


 すると、一匹の狼が前に出てきた。

 おそらくあの群れのリーダーなのだろう。

 毛並みは黒ベースだが、その中に散らばるようにして白い毛がポツポツと生えている様だ。


 俺もそいつと同様に、前に出る。

 数歩歩き、互いに一定の距離を取った状態で立ち止まる。

 相手の大きさはガンマと同じくらいなので、俺を見上げていた。


『……』

『……』

『お前がそっちのリーダーか』

『ぞうだ』


 とてもしゃがれた声だ。

 見た目は普通の狼なのだが、もしかしたらどこかで喉を悪くしてしまったのかもしれないな。

 さて、どう出てくる……?


 暫くそのままのどちらも動かなかったが、相手がゆっくりと頭を地面に下げた。

 それからまた、しゃがれた声で俺に話す。


『俺だぢばお前に従おう……。俺ばズルーズナー……。ざぁ、やるがいい』


 ……?

 え? やるがいいって何?

 え、こいつずっと頭下げたまま動かないけど……。

 あれ?

 なんか奥にいる他の狼もしおらしくなってね?

 なんでなんで?

 ごめん俺ちょっとよくわからない。


 何をすればいいのか分からないので、ガンマを見てみるが……。

 ガンマもなんだかしおらしくなっている。

 目を逸らしているのだ。

 えーこれどうすればいいんですか……。


 何もしない俺を見かねてか、ズルーズナーが顔を上げる。

 なぜ何もしないのか、疑問に思っているようだが……。

 何をすればいいのか分からないんです。


『なにをじでいる?』

『……いや、えーっと……』

『なぜ……ごろざない……?』


 ……ああ!

 あ! え!?

 そう言う事!!?

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