4.13.憂さ晴らし


 あれから二日。

 随分な距離を移動してきた。

 今は何とか山を越え切り、割と緩やかな森を進んでいる最中だ。

 こういった所に居を構えたいという気持ちが強いのだが、残念ながらこの森は密度が少ない。


 左右を見てみれば、すぐに草原が広がっている。

 細長い森なのだ。

 川はあるが、これだけ小さい森には小動物しかいない。

 だが小動物でも小さな子供たちのご飯にはなる。

 その狩りはベンツに全て任せ、狩った後で俺の所に持ってくるように指示を出していた。


 実は俺の光魔法である無限箱……。

 どうやら保存状態を維持したまま保管ができるらしい。

 これは今日の朝に気が付いたことだ。

 二日前に狩った動物についていた血が固まっていなかったことから、そう仮説を立てた。


 なので、以前から気にしていた食料の確保問題は、少しだけ解決したと言える。

 腐ってしまえば流石の俺たちでも腹を下す。

 今日を凌ぐ分だけの食料を確保しなければならない、という事が無くなったのは、旅に余裕を与えてくれた。


 とは言え、しっかりと見つけた獲物は狩っておかないと、貯蔵分が無くなるので油断はできない。

 しっかしベンツの狩りは速い。

 見つけたら一瞬だ。

 俺が匂いで獲物を感知した数秒後には、ベンツが俺のもとに獲物を持ってくる。

 忙しいのは俺の方になってきてしまっていた。


 今だけでも子供たち全員が食べれる分だけの食料はある。

 小さいので、俺やベンツ、ガンマには腹の足しにもならない物だ。

 どこかでデカい動物を数匹狩りたい所だ……。


 暫く進んでいると、森を抜けてしまった。

 ここからはこの平原を歩いていかなければならなさそうだ。


『その前にちょっと休憩するか』

『さんせーい!』

『はーい!』


 俺の頭の上に乗っていた子供たちを下ろし、ご飯を与えていく。

 小さい肉なので、ベンツやガンマでは肉を引き千切ることが出来ないので、今回はニアやレインにその役を担ってもらった。


 ニアとレインは、メスという事もあってか子供たちの面倒をよく見てくれる。

 オスたちは俺たちの真似をして周囲の警戒をしてくれているな。

 いい事だぞ。


『ベンツ。先を見てくれないか?』

『了解』


 休憩するときは必ずベンツに先を見てもらうようにしている。

 あれからは特に何の問題もなく南下している。

 何事もないというのは良いことだ。

 子供たちの安全が一番だからな。


『んー……。よっ』


 ガンマは自分の力を調整できるように練習中だ。

 急に力の制御が利かなくなったのは少し痛手だったが、元々強い力を持っているガンマ。

 基本的には力の使い方を理解しているので、加減を覚えるのはそう時間はかからなさそうだ。

 今も木を一つなぎ倒した程度に終わっている。


 いや、それはどうなんだと言うツッコミを頂くかもしれないが、以前のガンマは大木で達磨落としをしていたからな。

 そう、手の平の大きさ分で木材輪切りしてたから……物理で。

 そう考えれば成長した方である。

 俺知らなかったもん。

 何の切り込みも入ってない木で達磨落としができるだなんて。

 力は使いようですね。


 すると、ベンツが戻って来た。

 相変わらず早いなぁと思って、ベンツの方を見たのだが、その目はとても鋭い。

 一体何があったのだろうか。


『……どうしたベンツ。何があった』

『……人間だ』


 ベンツのその言葉を聞いて、俺は勿論の事、子供たちも食事をするのを止めて警戒する。


 俺たちは今、人間から逃げている最中だ。

 確かに旅をしていればいつかは会うかもしれないと警戒していたが、まさかこんなにも早く会うことになるとは思わなかった。

 ……まずはその人間たちの状況を聞くことにしよう。


『ベンツ。数は?』

『五匹。前にあった奴らと同じ格好してる』

『武器と防具を持ってんのか……』

『あと、獲物を二匹連れていた』

『二匹……? ってことは馬車かなんかを引いてるのか。周囲にはいないか?』

『仲間はそれだけだと思う』


 馬車を連れていて……五人ってことは……。

 旅をしている冒険者っぽいな。

 商人ではないだろう。

 だが周囲に仲間はいないし、ついでに馬車を引いている動物……。

 多分馬だろう。

 そいつを確保できるとすれば、襲撃しても問題なさそうだな。


 もう俺は人間に対して優しい考えは持っていない。

 あるのは獲物だという認識だけだ。

 それは此処にいる全員がそうだろう。


『ベンツ、そいつらを全員殺せるか?』

『楽勝』


 ベンツはバリバリッっと雷を纏った。

 その稲妻は以前の物よりも強力になっているように思える。

 やる気も十分そうだ。


『兄さん、俺はダメか?』

『お前はダメだ。力が抑えられるようになったとはいえ、それで音を出してしまったら意味がない。ここは静かに殺すことが出来るベンツに任せよう』

『んん……。わかった』


 ガンマの人を殺したいという気持ちはよく分かる。

 だが、今回はバレてはいけないのだ。

 強大な力を振るって攻撃を放つガンマは、どうしたって大きな音を立ててしまう。

 周囲には仲間がいないとはいえ、音を出してしまえばもしかすると近くにいる奴らに気付かれてしまう可能性がある。

 それは避けたい。


 だが、ガンマの力が必要になる場面は必ずあるだろう。

 その時はベンツではなくガンマに任せるつもりだ。

 来ないことを願ってはいるがな……。


『じゃあベンツ、頼む』

『分かった』


 一言だけ呟き、ベンツは一瞬で消えた。

 子供たちは少し不安げにしていたが、それも一瞬のことだ。

 すぐに先程まで食べていた獲物にまた食らいつく。


 暫くして子供たちが食事を終えたところで、ベンツが静かに帰って来た。

 少しだけ気が晴れたようではあるが、まだ足りないといったなんとも言えない表情をしている。

 帰ってきたのを確認した俺は、のそっと立ち上がった。


『行くぞ』


 歩く前に小さな子供たちを乗っけて、歩いていく。

 誰もそれに対して返事はしなかったが、後ろから静かに皆が付いてきた。


 とりあえず、今日の分の食料を回収しに行こう……。

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