3.30.初めての狩り


『ええ!? 子供たちを俺が!?』

『ああ。そろそろ狩りを覚えさせてやってくれ』


 オートからそんな提案をされた。

 生後五ヵ月の子供たちに、狩りを見せてやって欲しいとのことだ。

 一度見せてもらっているので、なんとなくわかってはいるのだが……子供たちが今まともに魔法を使えない状況で、狩りを覚えさせるのはちょっと気が引けた。

 俺たちは魔法を覚える前に狩りの見学をさせてもらったが、あれは数が少なかったから急を要しただけだ。

 今は沢山の仲間に囲まれているのだから、もう少し遅くても問題はないと思う。


 だが、オートはその姿勢を崩すことは無かった。

 それにはちゃんとした理由があったからだ。


『子供たちがなぜ魔法を使えないかわかるか?』

『え!? 理由があるの!?』


 魔法は練習すれば自ずと見えてくる物だと思っていたので、俺はオートのその言葉にひどく驚いた。

 オートは頷いてから、その理由をしっかりと説明する。


『魔法を使う目的がないからだ』

『……? どういうこと?』

『俺たちはお前たちに、一度狩りを見せたな。その時には魔法を使った。それでお前たちは、狩りには魔法を使う物だという事を知ったはずだ』


 あの時はびっくりするくらい大きな獲物に向かって風刃を放っていたのを覚えている。

 あんなのと戦うのであれば、魔法がなければ話にならないだろう。

 俺たちは確かに、あの時魔法を使わなければ狩りはできないと思っていたのかもしれない。


『それが今の子供たちと、お前たちが子供であった時の違いだ。あの子たちはまだ魔法の必要性を理解していない。魔法を使うには、それなりの目的が必要なのだ』

『仲間を守るため……って言っても、群れが襲撃されなければ覚えようとも思わないって事か……』


 これは一種の進化である。

 必要ないと思っているのであれば、無理にそれを使えるようにする必要はない。

 それは進化も同じだ。

 これは退化になるかもしれないが、必要ないと思っている物は、いずれ無くなってしまう。


 だが、魔法が使えなければ、この世界で生きていくことは困難を極める。

 故に、子供たちには早く魔法を習得できるようになってもらい、適正魔法が得意な仲間にその魔法の使い方を教えてやらなければならないのだ。


『わかった。じゃあベンツとガンマ連れていっていい?』

『ああ。他にもナックとバルガンも連れていかせる。子供は五匹いるからな』


 となると……まぁ俺とベンツとガンマで狩りをして、ナックとバルガンには子供たちの護衛に回ってもらうとしよう。


 今は何時人間が来るかわからない状況なので、少しでも早く子供たちには魔法を覚えておいてもらいたい所だ。

 現在は昼時なので、子供たちを集めて向かう準備を進めよう。


『じゃあ行ってくるよ』

『ああ。頼んだぞ』


 という事で、まずは四匹にこのことを説明していく。

 全員がそのことに承諾してくれたので、今度は子供たちを呼びに行くことにした。

 子供たちのお父さんお母さんにも話を通し、連れていってもいいか許可を取る。


『え、貴方たちも行くんですか?』

「わふ」


 狩りには賛同してくれたが、やはり心配だという事で子供たちの両親もついてくることになった。

 まぁ子供たちの護衛が増えるのは良いことなので、両親には子供たちと一緒にいてもらうことにする。


 ああ~……この両親はあのお父さんと違って温厚ですね……。

 また数か月後には同じことをあのお父さんに頼まなければならないのだろうか……。

 そう考えると面倒くさいなぁ……。

 絶対嚙み付いてくるじゃん。


『ベンツー。準備できたー?』

『出来たよ。で、何狩りに行くの?』

『んーと、今回は魔法をしっかり見てもらいたいから、あの時みたいにでっかい奴を狩りたいね』

『でも……あれ見ないよね~』

『だな……』


 あの時、俺たちに見学させてくれたあの鳥は滅多に見ない。

 あれだけでかい獲物はそうそう見つからないのだ。

 だが、狩りつくしてしまったという訳ではない。

 定期的にあいつは現れるので、時期によって回ってくる生物なのだろう。


 では何を狩ろうか。

 魔法を見せるのが今回の目的なので、速過ぎる獲物を狩るのはあまり好ましくない。

 小さい獲物は一発で終わってしまうし……。


 うーんと唸っていると、何処からかナックが現れた。


「ガルゥ」

『え? そうなの?』

「ガルル」

『じゃあ案内お願いできる?』

「ガウ」


 どうやらナックが以前住んでいた場所に、あの鳥とは違うが少々大きめの魔物がいると教えてくれた。

 少々危険らしいのだが、俺たちなら大丈夫とのことだ。

 その存在を知っているナックとバルカン、そして両親が子供たちの護衛に回るので、心配はないだろう。


 道案内をナックに任せ、倒したらワープでここまで運んでくるという流れになった。

 流石にあの山までは距離があるので、ここまで運ぶのは大変だ。

 そう言った理由で、俺とナック、そしてロードはよくこき使われている。


 まぁ口はその辺にしておいて、早速行くとしますか。

 どんな奴かわからないので、少しワクワクしている。

 久しぶりに全力で走れそうだしな。


『兄さーん。みんな連れてきたぞー』


 ガンマが子供たちを全員連れてきてくれたようだ。

 隣には両親もいるし、バルガンという狼もいる。

 これで全員がそろったようだ。


『よし、じゃあ行くか~』

「わふわふ!」

「わふ!」

『お前たちは後ろで見てるんだぞ?』


 子供たちの護衛に当たる仲間にも、しっかりと見ておくようにと言っておく。

 いきなり飛び出されたら守り切れる気がしないからだ。

 流石に魔法を見れば、飛び出して狩りに混ざろうなんて思う子供はいないだろうが、念のためだ。


 今回は本当に気をしっかり持って、子供たちを狩りに参加させないといけない。

 危険を伴うからな。

 ま、その前に倒せばいいんだけどね。


『ってこら、じゃれつかない!』

「わうわう」

「わふー……」


 遊び盛りのこの子たちにはちょっと酷かもしれないが……。

 まぁ安全第一だ。

 静かにしていと駄目だからね?

 獲物逃げちゃうから。


「わふー……」

「わうわう!!」


 ……静かにね?


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