2.16.リーダー同士の戦い


 さっきから走ってばかりのような気がするが、まぁとりあえず何事もなく進んでいる。

 あの見えないロープが壁を叩く音が消えたので、今は壁を解除して山を駆け上がっている所だ。

 まさか十分弱もあの攻撃が続けられるとは思ってもみなかった。

 どんだけ往生際が悪いんだよあのアンデット一角狼。

 まぁ戦いのいい勉強にはなりましたけどね!


 でもあれって何の魔法を組み合わせてるんだろう……。

 二つじゃできそうにないから、三つくらい組み合わせてるよなぁ。

 こういう敵の持っている魔法って、全属性が使える俺は絶対に真似できるから、できればいろんな魔法を見て回りたい。

 まぁ何を組み合わせるか理解できないとわからないんだけどね……。

 ていうか三つ混ぜると暴発しやすいんだけどね!

 難しすぎるよ混ぜるな危険!

 その分火力は上がるんだけどね。


 そんなこんなで俺とオートは山頂付近まで来ることが出来た。

 道中、観戦していない狼を見かけたが、何故か襲ってはこなかったことに少し疑念を覚えるが、無駄な争いをしないで済んだので、今はそのことは考えないようにしている。


 やっと敵リーダーの匂いも感じ取れるようになった。

 奴は山頂から動いてはいないようで、じっとこちらが到着するのを待っているようだ。

 めっちゃ余裕じゃないですか。


『オール』

『何ー?』

『お前は先程あった奴らがなぜ襲ってこなかったと思う?』

『えっ?』


 ええ……考えないようにしてたのに……。

 目の前に集中しましょうよお父さん……。


 とは言え、気になってはいた事だ。

 何故襲ってこなかったと言われると、疑問がどんどん出てくる。

 敵リーダーにそう指示されていたのか、それともさっきのが全部メスだからとか……そんな理由くらいしか思い浮かばない。

 絶対違う気がするけど。


 お父さんは既に答えが出ているので、こうして俺に聞いてきたのだろう。

 だが残念……俺にはさっぱりだぜ……。


『んえ……わかんない』

『数は向こうが有利、地形も向こうの方がよく知っている。なのに襲ってこない。となれば……大方、俺たちにリーダーを殺してほしいのだろう』

『ええ!?』


 ええーーーー!?

 そ、そんなこと考えるんですか俺たちの種族って!

 いや確かに人間並みに頭は良いと思いますけども!

 それって反乱に近くない!?


 あ、でもそうか。

 人間並み頭が良いんだったら、リーダーが寄生されているとかもわかるのか……な?

 その辺はよくわからんけど。


『でもリーダーに不満持ってるなら、全員でかかればいいじゃない』

『リーダーより強い味方がいないのだろう。怯えの目をしていたし、既に戦意も感じられなかった。そいつらがその様なことが出来るはずもない』

『確かに……』


 精神的に洗脳されちゃってるんですね……。

 スパルタ上司かよ。

 狼はどうかわかんないけど、人って精神壊れると正常な判断できなくなるんですよ。

 いやこれマジで。

 大体その原因って上の人間だからね。

 そもそも日本人働きすぎなー?

 皆も狼になれ~楽しいぞ~っはっはっは~!


 ……いや前世の記憶がない俺が言うのもあれだけどね……。


『! 風刃!』


 急にオートが空に向けて風刃を繰り出した。

 一体なんだと驚いていると、上の方で大きな金切り音が鳴る。


『む! 風刃!!』


 もう一度風刃を放つ。

 そうすると、また上の方で金切り音が鳴るが、それは一瞬で消え去った。

 全く目に見えない攻撃を、オートは相殺したようだ。

 だが、オートは浮かない顔をしている。


『何!? どうしたの!?』

『奴の風刃だ。あれを止めるのに二回も放ってしまった。本気だったのだがな……』


 ええええ!?

 お父さんの本気の風刃を二回ぶつけないと止まらない攻撃なんですかぁ!?

 マジで? 俺が敵う相手じゃないじゃん。


 てかどっから飛ばしてきた?

 匂いも何も感じなかったぞ……。


『オール下がれ!!』

『分かった!!』


 身体能力強化の魔法を使用して足に力を籠める。

 ガンマのように後ろに跳躍し、地面を滑って停止した。


 その瞬間、上から何かが落ちてきた。

 砂煙が待って見えなくなってしまっているが、何が落ちて来たかくらいはわかる。

 どう考えても敵リーダーだ。

 敵リーダーは上に大きく跳躍して、上空から風刃を放ったのだろう。


 上から下に落とす攻撃は重力の加減も相まって威力が膨れ上がる。

 風刃に質量があるかはわからないが、そうでなければあのような力強い攻撃はできないはずだ。


 そう思案している内に、砂煙が晴れて敵狼の姿が見えるようになった。

 その姿はなんとも禍々しく、まるで魔王に仕えているような姿だ。

 色は黒色と漆黒の色が混じったような色であり、見ているだけで中に吸い込まれそうな気持ち悪さを覚える。

 大きさ自体はオートと変わらないのだが、爪の鋭さ、牙の鋭さはオートよりも良さそうだった。

 だが関節という関節から骨が突き出しており、異様な姿を醸し出している。

 特に関節部の多い背骨と手足はどうなっているのかわからない。 

 顎からも骨が突き出していて痛そうである。


「カカカカカカカッカカッカッカッカッカカカッカ」


 声は無く、ただ歯をカタカタと連続して鳴らしているだけだ。

 人が良く寒いときに歯をガチガチと言わせるのと似ている。


『オール! ベンツ! ガンマ! 絶対に手を出すな! 良いな!』

『分かった! ……え?』


 後ろを振り返ってみると、ベンツとガンマが木の陰に隠れてこちらを見ていた。

 いつの間に帰ってきていたのだろうか……。

 俺の鼻は時々役に立たない。

 敵リーダーを補足し続けていたというのが原因ではあるが。


 声をかけられた二匹は、のそのそと俺の近くに歩み寄る。


『バレてた……』

『俺からだデカいからなぁ~。うんうん』

『兄ちゃんよりちっちゃいよ』

『ベンツが言うなよ』

『おーん?』

『こんな時にやめろよ二匹とも……』


 相変わらず仲がいいのか悪いのかわからないが、二匹とも無事でよかった。

 ガンマが一番心配だったけど、どちらも無傷でこちらに帰ってきたようだ。

 ダメージを負ったのは……俺だけか!

 やっぱ二匹ともすげぇな! うん!


「カカッカッカ」


 カタカタと音を鳴らしながら、敵リーダーがオートに突っ込んでいく。

 まずは魔法無しの肉弾戦。

 そう持ち込もうとしているのが丸わかりだが、オートの考えはそうではないらしい。


 すぐに距離をとって連続で風刃を繰り出す。

 それが何発が敵リーダーに当たるのだが、毛すら切れかなった。

 だがオートは動揺しない。

 まるで想定内だと言わんばかりに、冷静にその状況を見ていた。


雷天刃らいてんじん


 そう聞こえたと思った瞬間、オートが消えた。

 すると、敵リーダーの後方に姿を現す。

 一瞬であの距離を移動したことにも驚いたが、それよりも驚いたのが……。


「カッカッ!? カッカカカカ!?」


 オートが敵リーダーの、肩から腰までを爪で切り裂いたことだった。

 一気に鮮血が噴き出し、黒い毛並みが少し乱れる。

 先程の風刃では毛すら切れなかったはずなのに、何故皮膚は切れたのだろうか。

 だがそれに応えてくれる時間はない。

 オートはすぐに敵リーダーに向き直って構える。


「カッカッカ!!」


 ガチガチと歯を合わせ、魔法を発動させる。

 周囲の草木をかき集め、それに一枚一枚魔力を付与していく。

 魔力を作り出して戦う俺たちの種族でなければできない魔法だ。


 それは矢じりの様に硬く、鋭くなった。

 何百何千とある草木の刃が、オートに襲い掛かる。

 こうなってしまうと、周囲は武器の塊だ。

 この攻撃が強力過ぎて、他の狼は手をだせなかったのだろう。

 おまけにこの森は木が多く生えているし、その幹も太い物ばかりだ。

 回避しようにもなかなかできない。


 だが、オートは違った。

 全属性を持つオートであれば、それを無効化する魔法を作り出せる。


『衝撃に耐えろ子供たち! 風圧風刃!』


 衝撃がどれほどのものかわからないが、とにかく姿勢を低くして身体能力強化の魔法を使用してその攻撃に耐える。

 ベンツとガンマも俺の真似をしていた。


 次の瞬間、ドン!! という強い衝撃が俺たちを襲った。

 風で毛が暴れまくり、吹き飛ばされそうになる。

 だがそれを何とか三匹で堪え、様子を窺い続ける。


 周囲にもその風圧が襲いかかったのだが、大きな木が折れていたり、大きい岩がゴロンゴロンと転がったりしてた。

 そして、その風圧の中に風刃が入っていたようで、地面、木、岩などに爪の跡が数多く残されている。

 その攻撃を受けた葉の刃たちも風刃の被害をもろに受けたらしく、葉が切り裂かれていた。


 所詮は軽い葉っぱ。

 この風圧で敵リーダーが作り出した葉の刃は全て遠くに飛んでいったようだ。

 そして、敵リーダーには深い傷が刻まれていた。

 骨も所々切り裂かれており、ボロボロになっている。


 そして、俺はオートの攻撃を見てわかったことがあった。

 これは風魔法と風魔法を組み合わせている魔法だ。

 組み合わせは同じ魔法同士でもできるらしい。

 それをオートは恐らく知らない。

 風魔法に適性のあるオートは、無意識に魔法を混ぜているという事に気が付かなかったのだろう。

 オートは別々の魔法を組み合わせることが出来ないので、俺の予想は確実に合っている。


「カカッカ」


 あの攻撃を喰らっても敵リーダーは倒れない。

 すると、足元に風を纏い始めた。

 それに気が付いたオートは、すぐに纏雷を纏って動く。

 オートが動いた瞬間、敵リーダーも動いたが、先ほどとは比べ物にならない速度だった。


 互角。

 両者同じ速度で駆けまわり、得意である風魔法を繰り出し続けている。

 目で何とか追える速度ではあるが、あの状態で魔法を放ち続けるという事は俺にはできない。

 それは二匹も同じのようで、その動きを見逃さまいと、目を凝らしてオートを追っているようだった。


 オートの風神が敵リーダーを捉える。

 だが上手くはいらなかったようで、その攻撃は硬い毛に防がれた。

 狙いが定まった敵リーダーは同じく風刃をオートに向けて繰り出す。

 オートはそれを完全に見切って跳躍し、木を蹴って反対方向へと走る。

 それを追おうとして方向転換をした敵リーダーに向かって、今度は雷天刃を仕掛けた。

 片腕に黄色い稲妻が走り、また一瞬でいなくなって違う所に出現する。

 だが今回は骨に当たっただけだったようで、大したダメージにはなっていない。


 これが何度も何度も繰り返された。

 速いし正確。

 動きに全く無駄がないオート、そして敵の動きを予測しての攻撃。

 敵リーダーもオートに食らいついてきているが、やはり劣勢だ。

 攻撃ばかり喰らっていて、オートに攻撃を当てれていない。


「カカカッカカカカカカカカカカカ」


 苛立ちを醸し出すかのようにして、ガチガチと歯を鳴らす。

 すると、敵リーダーはその場に停止し、口を大きく開る。


 その瞬間、全身の毛が危険だという信号をだした。


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